劇場公開日 2020年2月28日

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野性の呼び声 : 映画評論・批評

2020年2月25日更新

2020年2月28日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

豊かな描写力と躍動感が胸を打つ、アニメ界名匠の実写デビュー作

ブラッド・バードトラビス・ナイトを始め、アニメ界から実写進出を遂げた例は少なくないが、本作で同様の一歩を踏み出すのはクリス・サンダースという逸材だ。その名を聞いて「ヒックとドラゴン」(10)のどこまでも空高く舞い上がっていく至福の飛翔感を思い出す人も多いはず。傑出した才能の実写デビュー作だけあり、この映画はここぞという場面の躍動感から犬と人間の絆に至るまで、豊かな描写力に彩られた逸品として仕上がっている。

幕開けは19世紀末のカリフォルニア。裕福な判事の屋敷に暮らす迷犬バックはある闇夜に男たちの手でさらわれ、ゴールドラッシュに沸く極寒の地ユーコンへと送られる。高値で売られた彼はそこで郵便配達員(オマール・シー)のそり犬の一員として加わり、その役目を終えると今度は貪欲な紳士(ダン・スティーブンス)の元で重労働に奔走。かくも飼い主のバトンリレーを辿りながら、バックの野生本能は大自然の中で少しずつ覚醒していき————。

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動物モノだからといって甘く見てはいけない。作り手の揺るがぬ本気度は、撮影監督にスピルバーグ組のヤヌス・カミンスキー、脚本に「ブレードランナー 2049」のマイケル・グリーンを据えた手堅い布陣からも明白だ。さらに主役犬バックの動きはシルク・ドゥ・ソレイユの元メンバーが生身の体で演じ、それを後からCGに置き換えているという。実写とアニメの線引きを超えたこのハイブリッドな効果がとにかく絶大で、生まれて初めて氷の大地を踏む時のおっかなびっくりの表情や、降りしきる雪を全て食べつくしてやろうと無邪気に跳ね回る姿など、バックの一挙手一投足には言葉を超えた愛おしさが満ち満ちている。

意表をつかれるのは、孤独な世捨て人のようなハリソン・フォードが飼い主としてバトンを受け取るのが中盤以降という構成だ。そこへ向けてお互いの運命の糸を手繰り寄せていく様がなんとも温かく、別々に過ごしてきた時間が長いからこそ、出逢ってからの信頼と絆がより確かなものとなって我々の心にも優しい灯をともす。

フォードがもたらした存在感の大きさは言うまでもないが、いやそれ以上に、絶妙なタッチで名優と名犬の黄金コンビを成立させたサンダース監督の演出力を高く評価したいところ。未踏の地へ挑んだ彼は真価を解き放ち、見事なアドベンチャーロマンを実らせたのである。

牛津厚信

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