劇場公開日 2019年9月20日

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「SFの姿を借りた神話」アド・アストラ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5SFの姿を借りた神話

2025年1月22日
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鑑賞方法:DVD/BD

タイトル「AD ASTRA」のADは至るという意味だが、もうひとつA.D.(紀元)ととらえることもできると思う。
いくつか不自然な祈りの言葉や宗教的な行為があり、なんかおかしな、時代錯誤的な脚本かと思わせておいて、実は作品の本質を優しく教えてくれているだけだった。

怪物になってしまったかもしれない父親を、単身探しに行く息子の神話であり、「オデュッセイア」をモチーフにした過去の物語であり、星間航行が可能になった未来の物語でもある。
この神話を始まりに、星世紀ともいうべき新しい時代に突入するのだが、ここで面白いのは、地球の他に生命はいないとすることで、今の世紀、つまり西洋紀元の根幹であるキリスト教の地固めをしたこと。新しい世紀は今の世紀の継続です、というわけだ。

これが主人公ロイの目線で物語になったとき、他者とコミュニケーションを上手くとれない男が真の孤独に直面した時、自分たちにはお互いしかいないと目覚める。つまり「汝の隣人を愛せよ」となる。
宇宙規模の自分探しだって?まあ間違いではないだろう。
しかし、ロイやロイの父親が目指したのは、自分の中の神に対する問いかけ、いわば神探しだった。

ほとんどの人が科学信仰の日本人には理解できないかもしれないが、世界の多くの人の自分や地球の始まりにあるのはビッグバンではなく神だ。
ビッグバンなんて嘘っぱち、誰も信じねーよ。ってもんだ。
科学と信仰は相性が悪い。特に宇宙のことになると最悪レベルで相性が悪い。宇宙の謎が解き明かされればされるほど、宗教的な世界の始まりが偽りになるからだ。
数年前に宇宙物理学者のホーキング博士が亡くなったが、保守的な信仰心篤い人たちは大喜びしたんだから。彼は嘘を言いふらすバカだそうですよ。
そんな最悪の相性をくっ付けてしまったんだから本作はスゴい。
SFの力を利用して神の正当性を主張する荒業。
科学の力で地球が平面であることを証明した。みたいな作品。

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つとみ