ハイ・ライフのレビュー・感想・評価
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本当の物語の部分は描かれない
ロバート・パティンソン演じる主人公モンテの船外活動から物語は始まる。どうやら宇宙船のようだ。
次に赤ん坊が登場。他のクルーは亡くなっていて、どうやらモンテと赤ん坊の二人きりのようだ。
赤ん坊は産まれたてのようで宇宙船内で出産されたようである。序盤は、どうしてクルーは亡くなってしまったのか。赤ん坊は誰の子なのか。を焦点にしたミステリーのような様相。
基本的に、分からないこと、明らかにならないことしか描かれないので、何でも教えてもらいたいタイプの人には向かない作品だ。
しかし、作品を紐解きたいタイプの人にとっても、あまりに多くが曖昧でイマイチ繋がらない部分はあるし、何より監督が語っている「タブー」というテーマが面白くない。
ネタバレなしだと書けることがこれくらいしか思いつかないので、やっぱりネタバレありに変更して続きを書く。
オチから先に書いてしまうけれど、このミッションの目的は、地球外での人類の繁殖だ。ブラックホールの先の世界での人類の繁栄。
繁殖というのは生命にとってのミッションでもあるので、契約による任務遂行とは別に考えても自然な行為である。
しかし、この宇宙船には主人公モンテと娘のウィローしかいなくなってしまった。つまり父と娘しかいない中での繁殖。これが「タブー」
モンテは禁欲生活をおくり、赤ん坊のウィローには、してはいけないことを禁忌だとしきりに説く。さながら僧侶のようだ。
彼がこれからするかもしれない行為から最も遠い男、それがモンテ。彼の決断や如何に。
な、ところで物語は終わってしまう。モンテの抱える「タブー」に対する「揺れ」が全くといっていいほど描かれないし、これからというときに終わってしまうので、作品のテーマに対するアプローチがほとんどないという、なんだかよく分からない作品。
描くべきテーマの舞台だけ整え、本当の物語は紡がないスタイル。ある意味斬新。
最後に、監督は意図していないのかもしれないが、ウィローが母親であるはずのポイジーよりもジュリエット・ビノシュ演じる医師に似ているように見えることが気になった。
科学的正しさとかは考慮されていない概念的な作品なので、もしかしたらとか考えてしまう。
『犬は歌わない』♥
前半がアンドレイ・タルコフスキーの
『惑星ソラリス』で
後半がスタンリー・キューブリックの
『2001年宇宙の旅』
そして、
インスパイヤーを受けているかいないか分からないが、平野啓一郎の
『ドーン』が臭ってくる。
2つのオデッセイとしての映画のテーマは再生だったが、この映画のテーマは滅びだと思う。
ソ連発、ライカの魂が宇宙を彷徨っている。ライカと同じ運命のヒゲを剃る男は贖罪を払拭しようと、もう一度同じ事を繰り返す以外方法は無かった。なぜなら、子供は育つ。やがて、タブーはやってくる。
傑作だと思う。
タブーへの挑戦
人類の種の保存のために「閉じた世界」に送り込まれた男女。地球の社会に馴染めなかった反骨者たち。
だが、タブーがタブーでなくなっている「閉じた世界」では、彼らは抗いながらも支配に屈している。主人公を除いて。
主人公だけはここでも反骨者であり、「個人」の尊厳を貫いていた。
冒頭で赤ちゃんのウィローに教える。
「排泄物を食べたらダメだよ。タブーなんだ。」
社会と個人の間に横たわるタブーへの挑戦。ところがタブーに挑めばそこに隠れていた矛盾は自分に返ってくる。その矛盾を引き受けないかぎり反骨者にはなれない。
犬のように繁殖しなければ、人類の種は絶たれる。近親相姦か種の保存か。最大の難問が突き付けられる。
そこで、ウィローだけが「社会」と「個人」の間に走った亀裂をつなぐことができた。
美しいオレンジ色の帯の向こう側には、我々の分離した思考をひとつに包むような解決策が存在しているに違いない。
ウィローのように、人類の叡智を超えた宇宙の智慧を受信することがハイライフ(至高の人生)かもしれない。
いろんな教養がないと楽しめないヤツだったね。しょーがない。 なんだ...
私には難しすぎた
時間軸を前後させているのはすぐわかるのだが、娘だと気がつくのにかなり時間がかかってしまった。観客のレベルを高く見積りすぎている。
閉鎖環境での実験の顛末としてみれば、辛うじて理解の範疇にあるかな。
熟女コンビの謎
ジュリエット・ビノッシュ(55歳)主演作品をハシゴ。そのひとつがクレール・ドニ監督(69歳女性)のハイ・ライフ。
SFもののようだが、内容的には妥当性や先進性はほとんどない。宇宙船を舞台に用いたに過ぎない。音響は全体を通して無音に近い。赤ん坊の泣き声だけが響く異様な前半。宇宙船内のプランターの植物や果実の映像、主人公のモンテ(ロバート・パティンソン)の地球での追想映像、赤ん坊の描写もゆっくりで、この映画の基調である。
だんだんこちらも慣れる。
記録報告すると生命維持システムが24時間延長してもらえる。
本当かよ!
設定だから仕方ない。
ビノシュ演じる女性科学者?(女医?)は宇宙船では事実上の管理者で、この宇宙実験室の使命を担っている支配者だ。彼女が地上の支配者から命ぜられた任務の内容は明らかにはされておらず、ある程度彼女にまかせられている設定。自分じゃ産まない女王蜂。男性乗務員には精液を提供させ、報酬として錠剤を与える。女性乗組員に人工受精(スポイトで精液を子宮近くに注入)を行う。この支配者に抵抗し、自分で膣洗浄する女に「無駄なことはしなさんな」と言う場面から察するに、そう考える。とにかく、細かい説明的なセリフはほとんどない。あれだけの人数の乗務員がいながら、食事する場面もない。いろいろな映画サイトのネタバレ解説では宇宙での妊娠中の宇宙線の影響を調べるとか書かれているが、生殖医療の技術が低すぎ。この点では、
ヒキタさん、ご懐妊ですよの勝ち❗
単に放射線の影響なら、地上でも可能だ。無重力状態での器官発生への影響の方が興味深いが、この映画とは関係無い。ビノシュを含め、乗組員全員が死刑囚であることや乗務員同士のセックス禁止、オナニー推奨(特別室あり)など異様な設定。女医は自分の夫と子供を殺した過去があるらしい。乗組員に生ませた子供に対する母性愛は十分あるが、極度に自己チューで、狂っている。
まぁ、観念的な映画なのである。
それを先進国の映画としてどう評価するかで、大きく意見や評価が別れるのだろう。
ジュリエット・ビノッシュはフランスを代表する実力派女優だ。年齢も55歳だ。この映画の見せ場はビノッシュがその背中、腰で魅せるエロチシズムだと思う。特製オナニーマシンのステンレス製の冷たい無機質な突起に紫色のスキンを被せるシーンから始まる。ハガネの女優魂を感じる。もちろん、日々のお手入れ、エクササイズの賜物に違いない。
クレール・ドニ監督がジュリエット・ビノシュを使って自分の為に作ったオナニー映画だと思う。人類の未来とか、空洞化する社会とブラックホールを重ねたとか想像しても始まらない気がした。大袈裟な異空間と不条理なルールを思い付いたら、作りたくてしょうがなくなったのではないか。ジュリエット・ビノシュは美しき共謀者となることで、監督に貸しを作ったか? 元々この二人の関係はどんなものなのか? 謎だ。
根源的SF神話
宇宙船内という密室に、男と赤ん坊がひとり。
...という状況から物語が始まり、「あれ?予告編で見たはずのジュリエット・ビノシュはいつ出てくんの?他の人は?」となりながら、ロバート・パティンソンの地道な宇宙子育てをしばらく見せられる(唐突に入る過去のフラッシュバックつき)。
そして他の乗組員だったはずの人びとが「遺棄」されて、ようやくそれ以前の物語が描かれる。
ことばで得られる情報量が極めて少ないのだが、宇宙船でブラックホールを目指し、そして生殖を求められる「囚人」たち。まあ究極の密室ですよね。
設定的には極めて安直(すみません)というか...宇宙、密室、生殖、性、罪、というキーワード。こんだけ詰め込めばもっと破茶滅茶になってもおかしくはないのだが、「女王」的に君臨するジュリエット・ビノシュがとにかくやばい。
白衣着てても謎の色気全開。謎のボックスで髪を振り乱すジュリエット・ビノシュ...艶かしいというかもはや恐怖に近い何かを感じる。
対して非常に禁欲的に生きるロバート・パティンソン。彼は彼でなんだかさっぱり分からぬ存在である。なんでそんな禁欲的なのか。そしてなぜか上半身脱いで歩き回る男性陣。
長期間変わらぬ風景の密室に居たらひとはおかしくなるというのは世の常識である。当然、皆どこかおかしくなり、軋轢が生じ...。
自由自在に動き回る時間軸を使って好きなように描いたSF密室劇!という感じ。どことなく古代ギリシャ的な...ギリシア神話とかギリシア悲劇的な匂いを感じる。特に男とその娘が残り、ラストに向かう辺り。
登場人物のバックグラウンドもさっぱり提示されないので、物語的には何がなんだかな部分が多分に含まれるのだが、「人の根源」みたいなものに肉薄したSFという気がする。生きものとしての人間の艶かしさ。喘ぎ、泣き、血を流し、土に還る。
ストーリーは面白い。他の監督版見たい。
欧米の映画って40-50代の女性のエロチックシーンが普通に有っていい! 日本はそういう意味で男が未熟だなと。若いほどいい、ピチピチがいい、なんてあんまり遊んでない証拠。
それはさておき、ストーリーやプロットは面白い! ただ、すごく良く撮れてるとも言えないかなあ。他の監督だったらどう料理するのか見てみたいと思わせる映画でした。
やっぱり、何となく見てみて。
あ、オナニールームも面白かったよ。
イカリエから50年分の進化
どっと疲れたぁ。監督さん、フランス人ですやん。前日はクリス・マルケルの哲学詩100分マラソンで、俺、脳死。今日は今日で宇宙漂流無言劇。連日の精神的拷問で盆連休を終えることになるなんて…
1963年のチェコスロバキア映画「イカリエXB-1」を思い出してしまうのは不可避。地球出発のミッションに狂いが生じ事実上の漂流。別動隊の船発見も壊滅後。違うのはオチ。
こちらはブラックホールに捕まってしまいます。
ラストは事象の地平面を超えた後を描写していると思われ。だって、すでに小型宇宙船の姿も無ければ宇宙服も着ていない。
光さえも脱出出来ないブラックホールの、その中心に近づくと、そこに閉じ込められた光に包まれると仮定しているみたいです。ただし、超高密度であるだけに温度も凄まじく高温化。重力に押し潰される前に、全ては燃焼し尽くすと思われますが、そこは「事象の地平面(シュヴァルツシルト面)」。ブラックホールの特異点は、無限に時空が捻られた場所。密度・重力が無限大に発散しているとされていて、物理法則やあらゆるものが当てはまらない、未知の世界。未知の世界に、さあ行こう。が、ラストカットかなぁ。
地球化学の物質は瞬時に焼き尽くされるが、事象の地平面を超えた量子物理学のヒト(だったもの)は未知の世界に足を踏み入れて終わる。
イカリエから50年経過。量子物理学と宇宙物理学の進歩の分だけ、ラストのシナリオも進歩してるんじゃないかと思う次第。
しかし、やっぱりミア・ゴスはエグいなぁ、可愛いけど。ウィロー役のジェシー・ロスとの再会が楽しみです。
8/30 ちょっとだけ追記
超絶なハッピーエンドって解釈。"High Life" は「高度生命体」と読みました。ありがちなオチですが、終わり方のビジュアルが70年代のB級カルト的だった点は、俺的にはマイナスでした。
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9/19 面白い本を見つけたので追記
「とんでもない死に方の科学」なる不謹慎極まりない本に、「ブラックホールに身を投げたら」どんな死に方をするかがありました。
「小型のブラックホール(以下BHと略)の場合。BHの周囲は、ほぼ純粋な真空。重力源からの距離が近い場所と遠い場所の間には、作用する重力加速度の相違により、『潮汐力』が働く。人の身体は、この潮汐力により、最終的にはバラバラに引きちぎられる。特異点を過ぎれば、重力は物質を押し潰す。その力は、人の身体を構成する物質の化学結合よりも大きくなる。つまり人の身体は、特異点に向かって一列に進む原子の行列となる」 要約終わり
まぁ、おっそろしいこと。
期待し過ぎたかな?
SFの懐の広さ。
なるほどSFと言うジャンルの懐の広さを感じました。
未知なる場所だからこそ、作り手のメッセージがダイレクトに伝えることが出きる。
で、大変大味な味付けでした。
宇宙とブラックホール。時間の扱い。生命誕生の過程。全てがリンクしていて、考えれば考えるほど、こゆこと?と勘ぐりたくなる。
ですが、あまりに観念的で、設定(実験内容やミッション、死刑囚の過去のスカスカさや主人公の過去の弱さ、亜光速移動出来る宇宙船の設定などなど)が、無駄に、こじつけ的に扱われている気がして、んーーなんか勿体ないかな〜でした。多分宇宙船自体が精子の様な扱いで優秀な遺伝子だけがブラックホールと言う後戻りの出来ない外の世界(膣外)に出ることが出来る(無限の資源、可能性を得る)みたいな事?
宇宙船のデザインは大好きです。
ワンコは胸が痛いw
宇宙空間と男女と性と罪と
2001年宇宙の旅を彷彿とさせるような均整のとれた美しい閉鎖空間
特にファッションや主舞台となる宇宙船内部のセットが、「閉鎖空間での臨床実験」という設定と相まって、非常に得体のしれない感じを演出していて、それが非常に美しい
また、宇宙船または宇宙空間での「音」についても非常に宇宙的な響きがあり、無常観を出していてよい
画面と音に関しては非常に気に入りました!
シナリオに関してはエンターテイメント的なプロットが弱いため、サスペンス的な楽しみ方をしようとすると肩透かしを食らう
閉鎖空間で、無限の時間を前にした男女が「性」と「罪」を抱えてどう生きていていくのか
視聴者は自身の経験にある「性」と「罪」とを照らしながら、ラストシーンがハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、それぞれが異なるストーリーを紡ぐだろう
全29件中、1~20件目を表示