劇場公開日 2019年4月19日

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「根源的SF神話」ハイ・ライフ andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5根源的SF神話

2020年1月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

宇宙船内という密室に、男と赤ん坊がひとり。
...という状況から物語が始まり、「あれ?予告編で見たはずのジュリエット・ビノシュはいつ出てくんの?他の人は?」となりながら、ロバート・パティンソンの地道な宇宙子育てをしばらく見せられる(唐突に入る過去のフラッシュバックつき)。
そして他の乗組員だったはずの人びとが「遺棄」されて、ようやくそれ以前の物語が描かれる。
ことばで得られる情報量が極めて少ないのだが、宇宙船でブラックホールを目指し、そして生殖を求められる「囚人」たち。まあ究極の密室ですよね。
設定的には極めて安直(すみません)というか...宇宙、密室、生殖、性、罪、というキーワード。こんだけ詰め込めばもっと破茶滅茶になってもおかしくはないのだが、「女王」的に君臨するジュリエット・ビノシュがとにかくやばい。
白衣着てても謎の色気全開。謎のボックスで髪を振り乱すジュリエット・ビノシュ...艶かしいというかもはや恐怖に近い何かを感じる。
対して非常に禁欲的に生きるロバート・パティンソン。彼は彼でなんだかさっぱり分からぬ存在である。なんでそんな禁欲的なのか。そしてなぜか上半身脱いで歩き回る男性陣。
長期間変わらぬ風景の密室に居たらひとはおかしくなるというのは世の常識である。当然、皆どこかおかしくなり、軋轢が生じ...。
自由自在に動き回る時間軸を使って好きなように描いたSF密室劇!という感じ。どことなく古代ギリシャ的な...ギリシア神話とかギリシア悲劇的な匂いを感じる。特に男とその娘が残り、ラストに向かう辺り。
登場人物のバックグラウンドもさっぱり提示されないので、物語的には何がなんだかな部分が多分に含まれるのだが、「人の根源」みたいなものに肉薄したSFという気がする。生きものとしての人間の艶かしさ。喘ぎ、泣き、血を流し、土に還る。

andhyphen