「冒険家の中にドン・キホーテは生きている」テリー・ギリアムのドン・キホーテ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
冒険家の中にドン・キホーテは生きている
苦節30年、9度の頓挫を経て。
度重なるトラブル、災難、キャストの病気の様などを収めたドキュメンタリー『ロスト・イン・ラ・マンチャ』も不謹慎ながら面白かったが、鬼才テリー・ギリアム長年の企画がやっと!
これもある意味、“事件”だろう。
そもそもの『ドン・キホーテ』の話を何となく知ってるような、あまり知らないような、というのが本音。
ちょいと調べてみたら、作品は基の小説に沿っている。自分を騎士だと信じ込む老人の奇想天外な冒険譚。
そこに本作は、さらに一捻りも二捻りも加えた、THEギリアム・ワールド!
スペインの村でドン・キホーテのCMを撮影中の監督トビー。が、会社やら代理店やら現場やらの問題で行き詰まりを感じていた。
宿泊ホテルで、学生時代に監督した映画『ドン・キホーテを殺した男』のDVDを見つける。撮影舞台の村も近くで、久々に再訪すると…
活気に満ちていた村は寂れ…。でも何より衝撃だったのは、映画でドン・キホーテ役に抜擢した平凡な靴職人だったハビエルが10年経った今も、劇中さながら自分をドン・キホーテと思い込み…!
そしてとんだ事が起きて、彼と冒険に出る!…って、何処に?
過去の撮影風景と現在のドタバタが交錯。
それはいいがそこに、一応現実の物語なのに、ファンタスティックな場面も挿入。現実と虚構も入り交じる。
旅が続くにつれ、何だか本当に中世映画を見ているような不思議。
風刺ネタやブラック・ユーモア、冒頭の映画製作のうんざりあれこれ、傲慢な奴ら、これらを痛烈に皮肉りつつ、
風変わりな冒険コメディとしても楽しめるし、シリアスや情熱的なラブストーリーの面もあるし、トビー=サンチョとハビエル=ドンのバディ・ムービー。勿論ここは、王道でもある。
30年分の、ギリアムのやりたい放題。ごった煮!
キャスティングもその都度変わったが、最終的にメインはこの二人に落ち着いた。
アダム・ドライヴァーのコメディ熱演。パンツ一枚になったり、ゴミ捨て場に隠れたり、服も顔もボロボロ、ヤギと○○し、歌まで歌う! よくやったよ、アダム!
お騒がせなハビエル爺さん。行く先々でトラブルを起こす。トビーの気持ちも分からんではないが、何故か何処か憎めない。ジョナサン・プライスが演じた事で滑稽さの中にも、崇高な騎士道精神や格言が説得力あり。
良い意味で一本の映画でも世界や人の人生の変えると信じているが、劇中では悪い意味で。
あの映画のせいで、村は変わり、ハビエルはずっと狂人のまま。
トビーがハビエルに振り回され苛々しつつ、旅を続けるのも、自分がそうさせてしまった責任と、彼を助けようとする気持ちがあったからではないか。
終盤、見るからに傲慢な奴らの何とも酷い仕打ち。ここは見てて辛かった…。
偉大なる騎士と言っておきながら、それは単なる冷笑する為の余興。言葉はアレだが、こいつら皆、○ね!
夢想人かもしれないが、ハビエルのような誇り高き騎士道精神を持った人たちはもう居ないのか…?
一体どういう冒険の終わりになるか予想出来なかったが、まさかの悲劇的な…。
ずっとバカバカしい夢の中で生き続けるのは愚かな事なのか…?
否!
夢や冒険を見続ける者は必ず後を絶たない。
どんなに苦難の冒険に見舞われようとも、ギリアムは実現の夢を諦めなかったように。
老いてもまだまだ!
テリー・ギリアムこそドン・キホーテ。
後に続く冒険家(映画監督たち)だって。
冒険家の中に、ドン・キホーテは生きている。