「水と女と蚕と女のお話」第三夫人と髪飾り もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
水と女と蚕と女のお話
クリックして本文を読む
久しぶりに『登場人物が饒舌に喋る』映画ではなくて、映像が静謐に物語を綴る映画を観た。絹で富を成している家(使用人の多いこと!)に第三夫人として嫁いできた15歳の娘の眼を通して描かれる、19世紀末のベトナムの富裕層の社会。男の意向ひとつで女の運命が決まってしまう世界。その日常生活が淡々と、取り巻く自然、移り行く季節の中で綴られていく。水と血のイメージが「女」に重ねられていく。「女の唯一の役目は嫁いで(男の)子を授かること」という価値観が絶対な社会の中でも強かに生きていく第一夫人と第二夫人(しかし男の子を成していないので“奥様”とは呼ばれない)。勿論、女たちの間には小さな野心・嫉妬等は生まれるが、反目し合うのではなく女は女同士という同士意識・連帯感で結ばれているように描かれている。それでも15歳で花嫁になったヒロインは、夫に触れてもらえなかったという事だけで死を選ばざるを得なかった未だ少女であったもう一人の花嫁の姿に、割り切れないものを感じ始める。そして女に生まれる事が幸せなのかどうか分からない世界に女として生まれてきた娘の命を断とうして毒草を口まで持っていく。しかし最後カメラは引いて彼女が果たしてそれを娘の口に含ませたかどうかは曖昧にする。ラスト、大きくなったら男になりたいと言っていた、第二夫人の次女が長い髪の毛を切り落として決然と微笑む顔にやがて来る新しい時代の希望を託しているようだ。ひとつの時代・場所を切り取った風俗詩だが、それを映像で綴る正に「映画」である。
コメントする