劇場公開日 2019年5月24日

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「自分の弱さを受け入れるのは、こんなにもむずかしい」パリ、嘘つきな恋 モーパッサンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0自分の弱さを受け入れるのは、こんなにもむずかしい

2020年7月4日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ジョスランは、世界的なスニーカー専門販売会社の欧州拠点支配人。パリ市内のプール付き邸宅に住み、ポルシェを乗り回す独身貴族。私生活では、ジョギングを除いてはスポーツもせず、音楽も聴かず、嘘八百で若い女性を次から次へと口説くことにしか関心がない最低の男だ。母親の葬儀があり、母親の住んでいた家を久しぶりに訪ね、母親の使っていた車椅子に座って、置かれたラジカセを再生すると母親の好きだった曲が流れる。そこへ、隣家に越してきた美女が挨拶に訪れ、ジョスランの脚が不自由なのだと誤解する。美女にさっそく下心を抱いたジョスランは、その誤解に便乗することにする。こうして今回の嘘が始まる。
 いつもの嘘はオシャレで鮮やかだが、今回の嘘を演じるジョスランは、チャプリンを思わせ、なんだか滑稽だ。プレイボーイが真剣な恋に落ちるのは予定のコースだが、その前後に、驚かされる展開がいくつか待ち受ける。それらの「えっ?」「あっ!」が新鮮だ。特筆すべきはプールの場面だろう。その美しさは名場面として名を残すに値する。
 「やなやつ」だったジョスランが、ある瞬間から恋する少年の顔になり、胸がキュンとする。真剣になるほど嘘が重荷になるが、なかなか真実を告白できないジョスランの優柔不断ぶりにイライラさせられる。ルルドへの巡礼旅行に至っては、「そこまでして嘘を通したいか」とあきれ果てる。そういうジョスランの意気地なさに対し、「恋するがゆえでもあるなあ」と少し受容する気分になった矢先、意外な形で真実との直面が訪れる。
 ラストシーンも意表を突く。この映画の最後でこんなに涙が出るとは全く予想しなかった。自分の弱さを受け入れたジョスランに感動するのだと思う

モーパッサン