劇場公開日 2020年1月31日

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「届くように撮ってるなと感じた。」AI崩壊 ウシダトモユキ(無人島キネマ)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0届くように撮ってるなと感じた。

2020年2月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

公開初週末の国内興行ランキング1位とのことで、心からおめでとうございますと思う。

入江監督はいっとき自分のフィルモグラフィについて、どうしていこうか悩まれていた時期があったけれど、それでも昔からの夢だった「パニックディザスタもの」を撮ることができたし、それをオジリナル脚本で大作としてヒットもしたから、本当に良かったよねと思う。もう悩みはふっきれたのかな、それとも一つの夢を叶えてしまって、逆にこれからに迷うことになるのかな。いずれにしてもこれからもたくさんの良い映画を撮っていく人だと思う。

本作『AI崩壊』について、語りたいことはあまりない。良いところいっぱいあって面白く楽しく観れたし、悪いところもちゃんといっぱいあって、実はそこに少し安心したりもした。

「ある登場人物がフェリーから冬の海に落ちて、漁船のアミに引っかかって助かった」というクダリがある。僕にはそこが笑いのシーンだとわかる。「海に落ちて、漁船のアミに引っかかって助けられるなんて、そんなベタなオチがあるかいぃ!!」っていうツッコミ待ちのくらだないギャグを、入江監督は大沢たかおという一流俳優を凍えさせるという代償を支払ってまで、仕込んだ。物語にその必然はないけど、わかる人だけわかればいい。入江監督はそういうことをやる人だから、僕は映画館でブフッと笑った。

映画館の中で、僕以外は一人も笑ってなかった。そして翌日映画サイトのレビュー欄やツイッタのハッシュタグで #AI崩壊を見てみたら、そのことが「ツッコミどころ」とか「ご都合主義」とか批判されていた。でもそういう人たちの数こそが、本作の動員数となり、公開初週末興行1位という結果を得た。映画のラストに独白セリフとして作品のメッセージを語らせることを、入江監督はあまり良しとはしない人だと思うけど、多くの人にちゃんと届く選択としてそういうラストにしたんじゃないかなと思ったりもする。

念願叶って、自分の撮りたい映画を撮った。でもその映画を届けるべき観客がちゃんと見えていて、届くように撮ってるなっていうふうにも感じた。

これから入江監督がどういうフィルモグラフィを重ねていくのか楽しみだ。僕は『SRサイタマノラッパー』でファンになり、『太陽』がいちばん好きで、代表作は『ビジランテ』だと思ってる「泥臭い入江映画」のファンなんだけど、そのラインにドンズバな作品を期待しているし、エンタメ大作な作品もどんな挑戦をしていくのか楽しみにしている。

ところでちなみに、「AIが人の生命を選別すること」について、昨今アニメ会社に火を点けるような奴とか、新幹線で人を刺す奴だとか、煽り運転や各種ハラスメント、差別やDVや汚職政治まで。「そういう奴らを選別して、安全安心な社会を作ってくれるなら、多少の監視や管理もやむを得ない」ということも思わなくもない時代になってきた。「AIの在るべき在り方」が『AI崩壊』の中ではマクガフィンであり、「結局は使う人間の心がけだよね」という結論については、ちょっと踏み込みが浅かったんじゃないかなとは思う。

ウシダトモユキ(無人島キネマ)