「人工知能は人を幸せにできるのか」AI崩壊 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
人工知能は人を幸せにできるのか
近年、ビッグデータの解析やディープラーニング等の技術開発により、大きな注目を集めているAI。人々の暮らしを便利で豊かにするこの技術は、これからますます発達し、私たちの生活と切り離せないものになっていくでしょう。そして、AIに頼りきった近未来、そのAIが暴走したら…という、いかにもありそうな設定が興味をそそり、公開初日に鑑賞してきました。
序盤はスロースタートながら、近未来の舞台設定や、大沢たかおさん扮する桐生浩介の人物背景をきちんと描いていたので、AI「のぞみ」がどのような思いをもって開発されたのかがよくわかりました。主要な登場人物もここで出揃い、それぞれの立ち位置や相関も描かれ、事件のお膳立ては整いました。
そこから、突然のAI暴走で、一気に緊迫感が増します。すでに重要な社会インフラとなっているAI「のぞみ」の暴走は、人々の生活に大きな混乱をもたらし、命までもが危険にさらされます。そんな様子を、大がかりなロケで多数のエキストラを動員したと思われる映像で描き出し、決して映画の中だけのことではなく、現実にも十分起こりうることだと感じさせます。
そして、その騒動の容疑者として桐生浩介を追う、警察のAIがこれまたすごかったです。現在の技術があと少し進歩し、法律があと少し味方すれば、実際にできそうな追跡劇でした。技術のすごさはもちろんですが、それ以上に管理社会の恐ろしさを感じました。
ただ、これほど優秀なAIをもってしても、神がかり的なご都合主義による逃走にはかなわなかったようです。AIはデータ収集と解析で追跡をしているのですから、桐生も神の御加護ではなく、自身の知恵と腕で勝負して逃げ切ってほしかったところです。それがないままの逃走劇が長く描かれていたので、ここでややテンションが下がってしまったのは残念でした。
しかし、いよいよ黒幕と対峙するために動き出す場面では、序盤から張り続けたさまざまな伏線を回収し、桐生の才能を活用した見事な逆転劇が描かれていたのがよかったです。この点においては決して悪くない脚本だったのですが、序盤の伏線がわかりやすい、真犯人が容易に予想できる、桐生の逃走がご都合主義すぎる等の難点が多く、終盤のよさが生かしきれてないのは、とてももったいなく感じました。
「人工知能は人を幸せにできるのか」 人工知能を扱った作品としては、表現は違えどやはりこの問題が投げかけられます。答えはわかりませんが、そうであってほしいと願います。仮に人工知能を車のアクセルに例えるなら、私たちの人生をより豊かで快適なものへと加速させてくれる一方、いざというときに減速や停止するためのブレーキと、ハンドルを握るドライバーも絶対に必要です。「人は技術を安全に制御できるのか」 人間の為すべき役割はここにあるように思います。本作を通じて、そんなことを考えさせられました。