「夢見がちな消費者のままでいて!という本音」天気の子 歯車農場さんの映画レビュー(感想・評価)
夢見がちな消費者のままでいて!という本音
ティーンエイジャー向け。つまりモラトリアムの中で閉塞感を感じながら、子供と大人との間の葛藤を上手く処理出来ずにいるような、多感な時期を過ごす人達へ向けた作品。要するに作中でも読まれる『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンみたいな人へ向けた作品だ。
展開から言えば大人(現実)の世界に対する青少年の反抗・純粋さを歓迎する(+セカイ系)映画だが、本来ならそれは行き詰まるしかないバッドルートだ。バッドもバッドとして描けば青少年の為のビターな映画で良いのだが、そうはしないのがこの映画。主人公を良く見せるために都合悪いことは全て排除。
大人は無神経で無責任、もしくは頼りない者としか描かれない。主人公を否定しないどころか羨ましいとさえ言わせる始末。
須賀なんて主人公が家出と知りながら匿って労働させて飲酒まで勧める。これが人の親なのだからまともな倫理観ではない。『魔女の宅急便』のパン屋主人とは状況が似ているようで本質は全く違う(キキの場合は親公認の修行。主人はキキを大人の立場からサポートする擬似親役)。とにかく酷い。
そして大人が作った世界は欺瞞に満ちて狂っているが、そこに溜る雨は泥一つない、まるで清水の池。つまり現実的な被害は何も描かない。ただ単に水が増えただけで、それは昔の状況に戻っただけだから問題ないと言わんばかりだ。当然主人公の銃器所持に対する刑事罰も描かないどころか冗談のような扱いだ。
そんなバイアスを掛けて下駄履かせて、女の子の命も天秤にかけてようやく成立しているのがこの映画だ。
とかろで悩める若者を肯定する映画と言えば聞こえは良いがもっと俯瞰して見ると、実際やってる事はピカピカの絵と適当なトロッコ問題抱えた恋愛で目眩ししながらとにかく企業広告とRADWIMPSを刷り込んでいくこと。地上波だとコラボCMで更に刷り込んで来る。
大人や周りに騙されず、自分の答えを大切にして!と多感な青少年にニコニコ追従しながら、コンビニに並ぶジャンクフードやスナック菓子、知恵袋、バイトや風俗、果ては自分の過去作を必死に仕向けるという最低の構造。
制作側は若者が純粋でアホな消費者のままでいてくれた方が楽に儲かるから、夢見がちな若者を応援しているのだ。
世界なんて元々狂ってるみたいな台詞が出て来るが、狂ってるのはこの映画作ってる人の価値観の方だろう。