劇場公開日 2019年7月19日

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「説明不足で入り込めないもどかしさ」天気の子 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0説明不足で入り込めないもどかしさ

2019年7月21日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

名作「君の名は。」から3年目に公開された新海誠監督の新作である。公開3日目ということもあって劇場は満員であった。私が新海作品をしっかりと見たのは「君の名は。」が最初であり、今作が2作目である。

比較をするなというのは無理というべきで、どうしても前作の影を探したり、引きずってしまうのは、我々見る側もそうだが、監督もかなり引きずっているのが感じられる作りであった。前作の人物の何人かがカメオ出演しているところなどにもその一端が見えているが、これは別に貶しているのではない。モーツァルトが歌劇「ドン・ジョヴァンニ」を書いたのは、前作「フィガロの結婚」を熱狂的に受け入れてくれたプラハの劇場のためであり、サービスのために、前作のアリアの一部を引用したりしているのである。

ただし、引用はオマケのようなものであり、肝心な本編の出来が良くなければ、楽しめるとは限らない。本作をファンタジーとして楽しめるかどうかは、おそらく観客の年齢層によってかなり違ってくると思われる。前作でも、変電施設を爆破したり、虚偽の内容を村の放送設備を使って行なっているが、あくまで村民の生命を守るためという大義名分があったので、観客の多くは目くじらを立てなかったのではないかと思う。今作にも非常に多くの触法行為や犯罪行為が出て来るのだが、大義名分が個人的な都合でしかないので、全く同情できなかった。

特に、警察官に追われて逃亡を図るというのは、最近似たような事件が現実として立て続けに発生しているせいもあって、個人的には全く同情できない行為としか思えなかったし、これは私に限らないのではないかと思った。市街地で爆発や水害などを発生させてしまえば、必ず誰かの財産にダメージを与えることになる。「シン・ゴジラ」では、そのリアリティを貫くために自衛隊が一発発砲するのにさえ徹底的にこだわりを持っていたのに対し、どうやらこの監督は、自分の信念を貫くためなら多少の違法行為は大目に見てくれという主義のような危うさを持っているようで非常に気になった。これは、100 年前の共産主義にも繋がる危険な考え方なのである。

脚本は、非常に説明不足が気になった。まず、主人公が東京に来た理由が薄弱であるし、都合よく住居と飲食物を手に入れるところなども、あまりに現実離れしていると思った。怖い世界の人間にカモにされ、下手をすれば臓器や生命まで奪われるかも知れないという都会の危険性を直視せず、偶然にもいい人達と知り合えましたというだけでは、突然宝くじが 100 万円当たりましたという話とそれほど違わないような違和感を感じた。

また、天気の子が悲劇的な結末を迎えるのが定めなら、なぜあの方法で救えることになるのか、というのも全く説明されていないので、観客は宙に投げ出されたかのような疎外感を感じることになる。結末を見ても納得できる人はそんなに多くないのではないかと思った。ひょっとすると監督は、説明しないのが粋だとでも考えているのかも知れない。芳賀の薬指にはまっている結婚指輪が2本なのは、おそらく亡妻が天気の子として悲劇的な結末を迎えたためではないかとは思うのだが、時々意味ありげに2本の指輪をキラリと光らせるだけで観客にそれを察しろというのでは、酷ではないかと思った。

あのヤバい武器については、最初に構えた時は本物かどうか分からなかったという理由も付けられるが、2度目は本物だと分かっているのであるから、開き直った凶悪犯以外の何者でもない。主人公の一方的な価値観のせいで、巨大な都市までがあんな姿になるというストーリーには、全く入り込めなかった。

役者は、本業の声優を使って欲しかった。小栗旬も平泉成も、本人の顔がチラついてしまって、ますます世界観に入り込むのを邪魔してくれた。折角ジブリと違う会社なのに、このまま行ってしまうと、ジブリの二の舞になってしまいそうで非常に気がかりだった。

音楽も前作と同じ担当というのは、やはり前作を引きずったものではあるまいか。結尾部とエンドロール中で「愛にできることはまだあるかい」という歌詞が大音量で流されるが、これを単純に愛という言葉で済ませてしまって良いのだろうか?という疑念が最後まで抜けなかった。

全編を通じて描かれる自然現象は、前作同様非常に見事で、特に花火をドローンで撮影したようなシーンや、雪が舞うシーンなどでは鳥肌ものの感動を味わった。それだけに、ストーリーやキャラの薄さと説明不足が非常に残念であった。
(映像5+脚本2+役者3+音楽3+演出2)×4= 60 点

アラ古希
アラ古希さんのコメント
2019年7月21日

コメント有難うございました。事故死と説明がありましたか。聞き逃したかも知れません。

アラ古希
2019年7月21日

僕もおおかたはそのように感じ、非常に共感できます。説明が足りない場面が多く見受けられイマイチ話に乗れなかったというか、話に置いてきぼりにされた感じでした。また主人公が次々と起こす犯罪行為も感情移入できなかった理由かと思います。ただ私にとっては挿入歌と映像美はとても良かったのでよくできたミュージックビデオと思って見ることにします。

一つ気になったのですが、劇中では須賀圭介の奥さんは事故でなくなったと言われていました。

Hanako2110