劇場公開日 2019年7月19日

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天気の子 : インタビュー

2019年8月2日更新
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「天気の子」醍醐虎汰朗&森七菜、立ちはだかったライバルは新海誠監督の“声”

7月2日、「天気の子」の世界をともに歩んだ醍醐虎汰朗の傍らで、森七菜は泣いていた。空から降り注いだ雨粒のようにも見える涙が、ステージの照明を反射し、瞳を光り輝かせる――同日の製作報告会見で披露されたスペシャル予報が、舞台袖に控える彼女の心の琴線に触れたのだ。新海誠監督の“過去”が“現在”へと繋がっていく映像は「(新海作品の)歴史の後継者」という自覚を、醍醐と森に再認識させる内容だった。その晴れ舞台に立つ数時間前、2人は自らの名刺代わりともなる本作への“愛”を露わにしていた。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基)

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3月16日に行われた予告アフレコ収録を皮切りに、本編アフレコ収録(5月26日)、「日本気象協会」訪問(6月19日)の場に同行し、その成長を見守り続けてきた。それぞれの場で弾ける笑顔、互いへの信頼が浮き彫りとなる掛け合いは、日増しに深まっていく絆の象徴だった。7月2日は、あいにくの曇天模様。しかし、インタビュー現場に現れた2人は、いつも通りの明るさを携えている。その場だけは、まるで太陽の日差しが降り注ぐ“晴天”のようにも思えた。

製作報告会見の時点では、本編は未完成の状態。無論、醍醐と森も完成した「天気の子」を見ることはできていない。「きっとすごく素敵な作品になっている」「どんな感じになっているのか想像がつかない」と胸の高鳴りが抑えきれない2人は、「早く皆さんに届いてほしい」と口をそろえた。

天候の調和が狂っていく時代を舞台に描かれる、運命に翻弄される主人公の少年・森嶋帆高(醍醐)とヒロインの少女・天野陽菜(森)が自らの生き方を“選択”する物語。タイトルが示すように“天気”を主題としている一方で、帆高と陽菜の感情が“天気”のように目まぐるしく変化していく側面も有している。「感情のコントロール」とは、どう向き合ったのだろうか。

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醍醐「脚本が物凄く素敵だったので、それを読むだけで感動したんです。『どうやって泣こうか』と考える前に、本当に悲しくなりました」

森「私も同じです。(“感情を作る”ということを)普段のお芝居の際に工夫することはあるんですが、『天気の子』のアフレコに関しては、あまりそうすることがなかったんです。そのままの自分で、感情が動いていく――不思議な気分でした。声だけの芝居のはずなのに、こんなにも気持ちが揺れ動く。それがある意味嬉しかったですね。私、『天気の子』の世界でちゃんと生きているんだなって思えたんです」

アニメーションのアフレコという初めての冒険の指針となったのは、新海作品の製作には欠かせないビデオコンテ(Vコンテ)だ。醍醐と森は、頭に叩き込むように幾度となく見返し、自らの表現における“最上の正解”を探し続けた。このVコンテ、特筆すべき点がある。それは各キャラクターの声を、新海監督自身が担当しているというもの。かつて「ほしのこえ」(オリジナル版)や「彼女と彼女の猫」に“声優”として作品に息吹を注いでいたことから、そのテクニックは「本当に上手いんです。びっくりしました」と醍醐が驚くほどだ。すなわち、大役を与えられた2人の前に、新海監督がライバルとして立ちはだかっていたのだ。

醍醐「帆高の“声”が一番上手だったので、どうしようかと…(笑)。でも、高い目標を示していただいたおかげで、吸収できるところは吸収しつつ、そこに自分なりの表現を足していくという作業を行えました。(Vコンテに)“お手本”を入れて頂いていたのでプレッシャーを感じることはありましたが、『これを超えていかなければならない』と意識することができたんです」

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森「(新海監督の“声”は)全く違和感がなくて、Vコンテの段階でも涙を誘う仕上がりだったので『どうしよう…』と思いました。でも、アフレコを乗り越えられたのは、Vコンテがあったおかげです。キャラクターの気持ちの部分は、言葉で言い表してしまうことで消化されてしまい、表現できなかったりすることがあるんです。その気持ちを、新海監督が“声”で表現してくれたことによって、そのまま受け継ぐことができたような気がしています」

Vコンテにおける“涙腺決壊”シーンの話題に転じると「僕はかなり泣いてしまいました。でも、僕たちが“声”を入れたバージョンは、もっと良い仕上がりになっていますよ!」と胸を張った醍醐。大きなプレッシャーを感じながら、6月5日に全てのアフレコ作業を終えた2人。自分たちこそ、森嶋帆高であり、天野陽菜であるという決意の言葉を聞けたことが、何よりの収穫だ。

帆高と陽菜の“出会い”は、それぞれの人生の転機となる。醍醐と森にとって、自らの人生を変えてくれた人物とは、一体誰なのだろうか。質問を投げ返ると、2人の視線はある方向へと向かった。そこにいたのは、彼らをサポートし続けてきた各事務所のマネージャーだ。中学3年生の夏休み、地元・大分でスカウトされた森。言葉の端々から感謝の念があふれ出す。

森「(同席していたマネージャーは)私をスカウトしてくれた方で、ずっとお世話になっています。この“出会い”がなかったら、私はまだ透明人間で、大分に住んでいる普通の子。見つけていただき、そして育てていただいて、本当に感謝しています。『天気の子』への参加が決まった時は、マネージャーさんが一番喜んでくれました!」

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醍醐「僕もとても言葉にできない位お世話になっているんです。今回やっと恩返しができて嬉しいんですが、まだまだ足りないくらい。ここからが恩返しのスタート。今回のオファーを知らされた瞬間は、忘れられません。ちょうど今後のために叱咤激励されている最中で…それが終わった後に『受かったよ。本当におめでとう!』と。完璧なオチが待っていました(笑)」

大勢の人が公開を待ちわびる「天気の子」は、今後の活動の起爆剤となるだろう。醍醐と森は、それぞれの未来をどう見据えているのだろうか。

醍醐「この作品をきっかけに、僕のことを知ってもらえる機会が増えていくと思うんです。役者としての目標をよく聞かれますが、『具体的にどうなりたいか』というものを決めないでおこうと思っています。まずは、色々な作品に挑戦させていただいて、ひとつひとつの役にきちんと向き合えば、良い方向へ導かれていくと信じています。『水のように生きていきたい』です」

森「目標としている女優さんは、満島ひかりさんです。満島さんの演技は、ご本人以外にも、演じているキャラクターが今も何処かにいて、生活をしているということを感じさせてくれます。見て頂ける方の心を奪い、共感を抱かせる――そういうお芝居をしていきたいです」

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さかのぼること18年12月13日、製作発表記者会見での「賛否が大きく分かれる要素がある」という新海監督の言葉が話題を呼んだ。その点について、醍醐とともに自らの考えを真摯に述べた森は「色々な“賛否の声”を聞いてみたいんです」と願っている。7月19日、2人の“声”は映画館に響き渡っていく。まずはスクリーンと向き合い、彼らの“声”に耳を傾け、新海ワールドに浸って欲しい。場内の明かりが灯った後、それぞれの“声”は重なり合うだけでなく、ぶつかることもあるだろう。しかし、その議論こそ「天気の子」の背中を力強く押していくパワーになるのだ。

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