「☆5ではなかった理由」アラジン 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
☆5ではなかった理由
改めて「アラジン」って本当に見所ばっかりの贅沢な映画だなと思う。オープニングの『アラビアン・ナイト』に始まって、ジャスミンとの出会いのシーン。もちろんジーニーの登場シーンと『フレンド・ライク・ミー』。『アリ王子のお通り』の盛り上がりも、二人が魔法の絨毯で大空を飛び回る『ア・ホール・ニュー・ワールド』の美しさも・・・枚挙に暇がないとはこのことで、もうすべてのシーンがハイライトと言ってもいいような内容。アニメ版も舞台版も大好きだけど、実写になっても「アラジン」という作品が持つエネルギーというか普遍的な面白さは変わらずに爆発しているなと言う感じ。そこに現代の技術を駆使した絢爛な映像美と華やぎが更に加わってもう圧倒されんばかり。
勿論、実写化に当たって細部が変更になったり工夫が加わっていたりという部分は多分に見受けられて、オリジナルの時点でも十分自立心のあるヒロインだったジャスミンが、更に意志が強く逞しい女性像になり、ジャスミンのソロの歌唱シーンを加えたりしたのも含めて現代的な解釈が加わった感じ。ただ個人的にはオリジナルのアニメ映画版からより膨らませた部分や新しく創作した部分が、かえって話をもたつかせたような感が否めず、ストーリーの血や肉になったというよりはただ「贅肉」がついたというようなそんな印象が残った。そう考えると、90分程度のアニメ映画版がいかに物語としてシンプルながらきれいにまとまっていたかを実感する。
そして「アラジン」の最大のカギを握るのは当然ジーニーの存在で、我々が思い描くジーニーがあのような陽気で抱腹絶倒な存在になったのはアニメ映画版でアドリブ満載で声を吹き込んだロビン・ウィリアムズの功績である。比較すべきことではないが、これはウィル・スミスの問題というよりも、「アニメ」と「CGIを使った実写」の違いだと言う風に思う。ロビン・ウィリアムズはまだ映像が出来る前に自由にアドリブを入れてのびのびとジーニーを演じたのに対し、この映画でのウィル・スミスはCGを使った実写である以上、どうしても脚本に書かれたコメディが主体になる。アドリブを入れるにも限度が出てくるし、脚本上のジョークが面白くなければ演者が頑張ってもそれは空回りになってしまう。そうなるとジーニーの存在の爆発力はどうしても差が出てしまうなとしみじみ感じた。ただジーニーは魔人という無国籍な存在なので、ちょっとヒップホップ入っててもそれはそれで面白かったなと思う。
いろいろと不満も書いたけれど、それらはあくまで「☆5ではなかった理由」に過ぎない。主役二人も好感の持てる美男美女で魅力的だったし、ウィル・スミスは新たなジーニー像を打ち出してファンキーでクールだった。イントロが流れ出しただけで踊りだしたくなるようなミュージカルシーンの昂揚感も、ド迫力の映像スペクタクルもどれもすごく良かった。ストーリー上少々気になる点もやや力業で捩じ伏せて観終わる頃にはどうでもよくなってしまうようなエネルギーと陽気さと派手さと楽しさで溢れていた(ただどうしても一点。ジャファーの迫力不足だけは最後までしっくり来なかった。声も微妙に甲高いしお肌つやつやお目目クリクリで全く恐怖心を煽られなかった)。
字幕版と吹替版と両方見たけどこれはどちらもGREAT!山寺さんのジーニーの声を聴いて安心感を覚えつつ、中村倫也さんが想像以上に上手だったので吹替も良かった。一方ミュージカルシーンの迫力は、原語の方が声の厚みが明らかに違っていてそれはそれは圧巻だった。