アラジン : 映画評論・批評
2019年6月4日更新
2019年6月7日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
まさか!?の大抜擢が予想を超えた化学変化をもたらす会心の作
忘れもしない。92年版のワンシーン、グラミー賞受賞の主題歌「ホール・ニュー・ワールド」の伸びやかなメロディに乗せて空飛ぶ絨毯がどこまでも飛翔していく姿は、多くの観客を魅了したものだ。
あれから27年。新たな実写版で何よりも嬉しいのは、あのまさに映画的な映像の魅力が全く失われていないことだった。路上で育った貧しい青年アラジン(メナ・マスード)は王女ジャスミン(ナオミ・スコット)への叶わぬ恋心を抱き、当の彼女は広い世界へ飛び出す自由を願っている。そこにランプの精霊“ジーニー”が振り掛ける魔法を少々。するといつしか二人は手を取り合って、美しい歌声を存分に響かせ合いながら、夜の空を滑空している。このスケール感、陶酔感。音楽と映像が渾然一体となった心地よさは今回も格別だ。
本作には悩みや苦しみを飛び越える「軽やかさ」がある。不可能を可能に変える「大胆さ」がある。予想外の抜擢を受けたガイ・リッチー監督は、いつものスタイリッシュな演出を抑えつつも、彼のもう一つの持ち味と言える街の喧騒を活き活きと描き、さらには魔法のランプというマクガフィンをめぐって登場人物を巧みに転がしていく。このあたり、コアなファンならニヤリとしてしまうところかも。
中東や中央アジア系の多彩な人種を擁したキャスティング(フレッシュな若手二人がとてもいい!)、現代に合った設定のアレンジなども気が利いている。だがもっと気が利いているのは、やはりジーニー役にウィル・スミスを据えた恐れ知らずとも言える決断だろう。
作品によってはトゥー・マッチに映る場合もある彼のパフォーマンス。だが、イマジネーション豊かな本作の器の上では、全てが絶妙にキマる。というか、彼の登場によって俄然、物語に勢いがつき映画そのものが規格外へと跳ねるのだ。かつてロビン・ウィリアムズが即興を取り入れて演じたテイストに敬意を払い、なおかつ自らの持ち味をしっかり挟み込む力量はさすが。そして吹替版ではこの役を92年版と同様、山寺宏一が演じているのも見逃せない。個人的にこのロビン、ウィル、やまちゃんの三位一体ぶりに胸熱くなるものを禁じえなかった。
時は巡り、「魔法」や「世界」という言葉の重みもすっかり変わった。でも本作が描く、人を愛する心、自分の頭で考え行動する勇気、他者の幸せを願う尊さは不変のもの。ぜひこれを機に両バージョンとも堪能し、このストーリーが愛され続ける理由に思いを馳せてみてほしい。
(牛津厚信)