「誰に向けたのかわからない作品」モンスターハンター 言鯨さんの映画レビュー(感想・評価)
誰に向けたのかわからない作品
原作のヘビーユーザーには世界観やモンスターのデザイン・設定、武器の取り回しやデザイン等あらゆる面で違和感が強く、ライトユーザーには知らないモンスターや俳優の人選で違和感があり、原作を知らない人には圧倒的説明不足でよくわからないという、正に誰得な作品。
現実世界の軍人がモンスターハンターの世界に転移してしまう、というのは良いのだが、機関砲やロケットランチャーやグレネードの0距離爆発でもマトモにダメージが通った描写が無く、主人公のアルテミス以外はあっさりと全滅してしまう。
そしてモンスターハンターの武器(双剣や弓、大剣等)は簡単にダメージが通る。
では何か特別な力が宿った武器なのか?と思うが、現実とMH世界の言語が違うので説明出来るキャラクターも居ない。
そしてお互い襲う理由も特に無いまま唐突に始まる主人公とハンターの格闘戦と、本気で殺しあってた所から唐突に和解するという意味不明な展開。しかもこのシーンがそこそこ長い。見てる側としては「モンスターハンターなんだからモンスターとやりあえよ」という感想が出てくる。
加えて、原作ありきのモンスターハンターという作品なのに、モンスターの生態が違う。
作中序盤に出てくる「ネルスキュラ」という蜘蛛型の大型モンスター。このモンスターはNintendo 3DSのゲーム「モンスターハンター4」及び「4G」「XX」にのみ登場するモンスターで、この3作品を触った事の無いユーザーはそもそもこのモンスターが何なのかわからない。
かといって、ゲームだとこのネルスキュラは群れる設定も無く、作中程巨大な巣を張る設定も、地下に巣を作る設定すら存在していない。何なら原作で巣があるのは森の中の洞窟だ。作中のネルスキュラは太陽光を嫌って日の下へ降りてこないが、原作では太陽光を嫌う描写こそあれ、場合によっては普通に日の下に出てくる。
加えてゲームとは眼の配置が違い、更にネルスキュラの特徴とも言える鎌状に変化した前脚も無い。
次に角竜「ディアブロス」。このモンスター、耳が非常に良く「砂漠の暴君」と言われる程気性は荒いものの、サボテンを主食とする草食モンスターのため、ゲームでは無差別に生物を追い立ててまで攻撃する程では無いのだ。
極めつけは作中ディアブロスが居た場所は小高い岩山の近くだが、周囲は見渡す限り砂漠という状況で、主食のサボテンどころか草の一本すら見当たらない。
主人公がMH世界に迷い込み、ネルスキュラに襲われ、ハンターと出会って殺し合い、和解して双剣の扱い方を学び、倒したネルスキュラから睡眠毒を剥ぎ取るまで、少なく一週間以上は経っているだろう。
ディアブロス何食ってたんだよ。
ネルスキュラもネルスキュラで肉食なのだが、数百数千匹もの群れが砂漠のど真ん中で、ディアブロスと主人公とハンターくらいしか肉が無いのにずっと前から暮らしているような描写がされている。
そして強大とはいえ数の暴力と毒で比較的簡単に相手でき、かつ食える部分も多そうなディアブロスがすぐ近くにいるのに執拗に小さな人間を狙ってくる点も謎。
そしてディアブロス戦だが、銃弾すら弾くディアブロスの、縄張り争いで思いっきり打ち付け合うため最も硬い頭骨の、更に最も負荷が掛かるために更に強靭であろう角と角の間に簡単に突き刺さる大剣。
甲殻の隙間を狙った・皮までは入ったが骨に阻まれた等でここまではまだ理解出来るが、その後主人公が支えや力を掛けられる物も無く、自分の体重のみで簡単に頭蓋骨に刺さるという展開。いや、ディアブロスの頭蓋骨そんなに柔らかくないだろ。と言わざるを得ない。
せっかくスリンガーという、「鉄の楔を打ち込んで、そこから伸びたワイヤーを巻き取る事で立体機動すら可能にする装備」があるのだから、せっかくなら頭に打ち込んだスリンガーを巻き取って支えにしながら、腕力と巻き取る力で無理矢理大剣を押し込む。
若しくはディアブロスが岩に頭を打ち付ける時、頭頂部にスリンガーを打ち込んだままダイブすることで無理矢理ディアブロスの頭の向きを変えて岩山で大剣を押し込む、といった事も出来たであろう。
そして砂漠を抜け出し調査団と合流することが出来たのだが、この調査団の大団長は現実世界の言葉を話せる。曰く「お前の前にも現実世界からMH世界に迷い混んだ人はいる」と言うのだ。
普通ならここで今までされなかった説明がある程度されると思うのだが、一切されない。代わりに主人公は出会い頭に殴られて気絶し、牢にぶち込まれる。
その後脱走するのだが、即見つかる。しかも御咎め無し。そして大団長の元へ連れていかれると「誤解をハンターが解いた」と言われるが、何を誤解していたのか、ハンターから何を聞いたのか、前に来た現実世界の人達はどうなったのか等、何も説明されないまま話が進む。
そして何もかもが説明不足のまま、「古代文明の遺跡が暴走してお前の世界と繋がった。元の世界に帰りたいなら、遺跡を守るリオレウスを狩るのを手伝え」と言う。
が、しかし、モンスターハンター公式の有名な裏設定として、「古代文明はモンスターとの戦争で滅んだ」というものがある。超技術を持った人間と、「移動する天災」とすら呼ばれる古龍を含むモンスターの間で戦争が起きていたのだ。
人間の対モンスター兵器の中には、「イコール・ドラゴン・ウェポン(龍に匹敵する兵器)」と呼ばれる、一体作るのに数百体のモンスターの素材を必要とする生体兵器が存在する程。
だというのに、大団長は「古代文明は遺跡を守る為にモンスターを利用した」という。
特に改造された様子も無く、敵対していた古代文明に利用されているモンスター。しかも古代と言うからには相当な年月が経っているだろうに、代替わりしても尚守り続けているのか、それとも何らかの処置によって延命されているのかすらわからない。
そして更に、作中序盤で主人公達αチームが追っていたβチームが、砂漠の中でリオレウスに襲われて全滅したかのような描写があるが、遺跡から砂漠までは相当な距離がある上、リオレウスが遺跡から大きく離れる描写も無い。
加えてハンター達の武器だが、予算削減の為か変形しない上、背負えない。
弓は二つ折にして背負えないし、片手剣と盾から、結合させることで巨大な斧になるチャージアックスも、斧形態から変わらない。斧形態から変わらないから、私が最初見た時は大剣かと思った。変形しないから小型化も出来ず、小型化出来ないから背負えない。
加えて斧形態のチャージアックスは、装着されたビンの中身を消費することで爆発を起こせるのだが、何故かこの爆発が熱波の様に表現されている。
更に言うと、登場人物達がこういった対モンスター用の、大きく、重く、一撃でモンスターの甲殻を割る程の質量の武器を、余りにも軽く持っている。まるで重さを感じさせずサーカスの様にぐるんぐるんと大剣を振り回し、高密度の巨大な骨と鉄の塊をまるで発泡スチロールの様に担ぎ、先端に質量が偏っている斧を、柄の端を持って簡単に振り回す。
如何にも「実は発泡スチロール製です」と言わんばかりの演出。
見ている途中だというのに、完全に冷めてしまった。
本作はバイオハザードシリーズの監督が作ったと聞いて、妙に納得した。対人戦・ネルスキュラの演出・常に気を抜けない状況を作る事。
確かにこれらの要素はパニックやホラー要素のあるバイオハザードという作品には必須と言える物だ。が、モンスターハンターにはこれらは無駄でしかない。
モンスターハンターにはサバイバル要素はあっても、パニックやホラー要素は無い。モンスターとの戦闘はあっても、対人戦は必要が無い。
監督はひたすらに、バイオハザードを意識したのだろう。世界観やモンスターの生態等に詳しく無く、武器の取り扱いも良く知らず、モンスターハンターという作品の表面だけ掬い取って、そこから下をイメージで作った。と感じる作品。
現実とMH世界の二つの要素を出した意味も対して感じられず、ただ監督が現実世界の要素を入れたかっただけにも感じられた。
主人公が持っていた指輪、なぜモンスターにはMH世界の武器だけが効くのか、古代文明とは、最後のモンスターは何なのか、この映画は伏線を仕込めるだけ仕込んでほぼ全てを未回収のまま終わってしまった。モンハンの良さを何一つ表現出来ずに終わってしまった。
続編が出るかも!と思うが、こんな出来では制作されないだろう。
同じように伏線を仕込めるだけ仕込んで炎上した映画にエヴァンゲリオン新劇場版シリーズのQがあるが、あちらは元々で謎の考察がメインとも言える作品で、かつ元々4部作として制作されたものの3作目であり、事実としてシン・エヴァンゲリオン劇場版で全ての伏線が回収された為しっかりと丸く収まったが、本作は何作作るか、そもそも2作目を作れるかわからない状況で全てが伏線にされているせいで、余計に質が悪い構成になっていると思う。