「I believe in yesterday」イエスタデイ 神社エールさんの映画レビュー(感想・評価)
I believe in yesterday
ダニー・ボイル監督作品は『28日後...』、『スラムドッグ$ミリオネア』、『127時間』のみ観賞。
ビートルズについてはもちろん有名な曲は10曲程度は知っているもののアーティストとして追ったことが無かったので、別のアーティストがカバーしているものの原曲がビートルズだったりする曲はそうと知らずに聞いてた記憶もしばしばで、どういう立ち位置のアーティストでどういう歴史を歩んできたかは知らない状態。
映画のあらすじを見た時に”世界や自分が知っていたものが世界が知らない状態にされる”ってシチュエーションが興味深く、どういう作品になるのか気になってたものの機会を逃していたのでようやく観賞。
観るまではサクセスストーリーっぽい映画になるのかと予想していたものの、いざ観てみるとシチュエーションはサクセスストーリーにも出来る素材だけど、自分がアナログからデジタルに切り替わる時代と今の時代の違いを知っているからかアーティストが今の時代に感じる哀しみと”偉大な作品を生み出したアーティストへのリスペクト”を全体の印象として感じたな…。
そう感じたのは自分が幼少期に『yesterday』を聴いた時にはビートルズを知らなかったのにも関わらず楽曲に鳥肌が立ち思わず聴き入ってた覚えがあったのに、主人公が両親に『Let It Be』を初めて弾いて聴かせるシーンでは着信や来客、コーヒーにさえ邪魔されるシーンや、主人公の作曲した歌を嘲笑の意で使いだす人、一曲一曲が魂を込めた作品だろうに10分作曲で対戦させられたり、LAのマネージャーやプロデューサーには休みもなくまるで機械生産のように酷使され、曲の歌詞やアルバムジャケットさえも「時代遅れの歌詞だからこっちの歌詞が良い」だったり「差別になるから」で変更されるあまりに”即物的に消費していく”今の時代を端的に表したシーンが多く(サブスクの台頭により)音楽だけじゃなく映画などの映像作品やゲームなどエンターテイメント全般に通じるところがあったからだと思う。
もっとアーティスト側の悲哀を感じさせるためにTikTokなどの切り貼り文化や円盤での媒体が消えていく惨状を見せて訴えかけることも出来るだろうけど、現代の文化に対する悲観的な見方をし過ぎない全体的なバランス感覚も良かった。
そんな今の時代の哀しみを体験していくのが現代人として”即物的に消費していく”側(まさに即物的に消費するモノを売るスーパー店員であり、マネージャーのヒロインをタクシー運転手扱いにして人生を浪費させていた)だった主人公だからこそ、ビートルズのバックボーンを知らない自分でも共感も出来る良いバランスになっていたのかな。
個人的にジャックがビートルズをそのまま歌ってるって気付いた人が、ジャックに会いに来て感謝を伝えるだけじゃなく、「正しく使ってね」って言うのが一セリフではあるけど観終わった後一番ってくらい心に残ったし、結末も”元の世界に戻る”って方法じゃなく”作品を手放して世界に還す”っていう結論なのもとても好き。
ビートルズ自体に興味出てきたからいつかドキュメンタリー観てみようかな…。