「変化していく対比構成とラストのどんでん返しの妙」アス オレさんの映画レビュー(感想・評価)
変化していく対比構成とラストのどんでん返しの妙
幼少期に自身のドッペルゲンガーと遭遇したことによりトラウマを抱えてしまった女性アデレードウィルソン。
夫と2人の子を持つ母となった彼女が家族旅行に出掛けた先で家族全員のドッペルゲンガーに遭遇する恐怖を描いたホラー作品。
2017年の『ゲットアウト』にて第90回アカデミー賞脚本賞を受賞したことが記憶に新しいジョーダンピールによる監督作品。
主人公家族をはじめ、全米の人々にドッペルゲンガーが出現し、殺戮が行われるという終始恐怖連続の作品であった。
今作は何よりも演出力がピカイチでアメリカの社会事情を皮肉った比喩が多く盛り込まれているのが特徴的であった。
それを象徴しているのがウィルソン一家がドッペルウィルソン一家に追い込まれ、別荘のリビングで対面した際に、アデレードのドッペルであるレッドが放った「私たちはアメリカ人だ」という一言が全てを表していると感じた。
アメリカ社会における白人と黒人という人種差別や富裕層と貧困層という格差などを地上の人間と彼らの負の側面だけ与えられた地下のクローン人間の対比で表現し、社会的弱者を見捨てるアメリカ社会に警鐘を鳴らす表現を取っている点が本作のメインテーマと感じた。
またホラー作品としても長男の名前がジェイソンだったり、ドッペルゲンガーの武器がハサミだったりと80年代のホラー映画へのオマージュを盛り込んだり、自分そっくりの人間が襲いかかる恐怖などを十二分に描かれてたりと質も高く感じた。
ラストシーンの背筋が凍るような恐怖が痛烈に脳裏に焼き付く一方、上記のテーマを踏まえるとあのラストはドッペルゲンガー(社会的弱者)にとっての希望とも呼べるのではないかという解釈もできる為、単なるホラー映画と括るには難しいメッセージ性の高い作品と感じた。
とりあえず観賞後しばらくは夜中自宅の外を覗くことができなくなると思う笑。