劇場公開日 2019年9月6日

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「そっくり人間たちの収容施設は広いなあ」アス 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0そっくり人間たちの収容施設は広いなあ

2020年7月11日
PCから投稿

しばしば、プロモーション用スチールをひと目見ただけで「あ、いい映画だ」と思ってしまうことがあります。
Usのそれは、少女がじぶんの顔面のお面をのけて半顔をのぞかせている、とてもスタイリッシュなスチールです。輝くようにきれいなダークブラウンの肌で、喫驚の表情と、その白く大きな瞳がよけいに際立って見えます。「あ、これは絶対いい映画だ」と思いました。

色の濃い黒人を主人公としていることが、すでにJordan Peele監督の特異性です。西洋世界に寄り添う我々は、ドラマに出てくる一般的なファミリーと言えば、まず白人のそれを思い浮かべます。いつだって、オー!マイキーみたいな人たちが物語の主役なのです。

その定石を崩すことで、つまり、ただ黒人を主役に据えることだけで、社会的メッセージを発することなく、黒人の地位向上に貢献しようとしている、のは言うまでもありません。それはSpike Lee、Antoine Fuqua、Steve McQueen、黒人の映画監督たちが、必ず備えている内在律だと思います。ただJordan Peeleのはとても無意識的です。
Get Outでは白人の黒人に対する固定概念が、とても静かに、とても痛烈に、批評されていました。

Usにも、そのような主張はありますが、もっと遠回しです。遠回しですが、全米を代表する家族が黒い肌をしていることは、有効なボディブローです。ただし、そのような社会派的なスタンスを全く表立たせずに、楽しめる映画に仕立てているところがJordan Peele監督の真骨頂だと思うのです。

Keddie murdersのような世界が描かれるのかと思っていると、ホラー/サスペンスの常套性を回避するように、妙な方向へ変転していきます。そのアイデアもさることながら、愁いの雰囲気づくりが巧妙です。心象を語るとき、超スローのズームインまたはアウトを使うのですが、それがすごく語ります。ウサギのカゴをゆっくり引いていくタイトルロールから引き込まれました。

Get Outにも通じて、どことなくコミカルで、且つ優れたCMディレクターになり得る、洒脱なカメラワークがありました。また音が印象的です。鋏の音、鈍体で殴ったときの音、レッドの声。
It Followsでホラー映画に新しいアイデア/スタイルをもたらしたDavid Robert Mitchell同様クレジットされているだけで、見たいと思う監督です。

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津次郎