劇場公開日 2019年9月6日

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「僕がブルーインパルスに感じた違和感への回答を示してくれた気がする作品」アス わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0僕がブルーインパルスに感じた違和感への回答を示してくれた気がする作品

2020年6月27日
Androidアプリから投稿

「万引き家族」「ジョーカー」「パラサイト 半地下の家族」と一括りにして『格差映画』として語られることの多いこの作品。アマプラ配信を待って視聴。その後解説記事等を見てもう一度視聴。

元々ホラーが苦手なのですが、「ベロベロバー」的な怖がらせ方ではなく、音を巧みに使って引き付けて引き付けて怖がらせるというやり方が多かったので、ある意味身構えて見れる分、安心してみることができました。

冒頭から面白い。ニュース映像を流して世界観を提示した上で、テンポ良く時間軸を移動していく。ウサギがたっぷりのオープニングはゾクゾクもワクワクもさせられた。不思議の国のアリスをモチーフに、一度落ちると落ちるしかないことを暗示する面白さだったと思う。

話は変わって、コロナウイルスが世界で猛威を振るっている中、ブルーインパルスが都心上空を飛んだ。自分はなんて素敵なニュースなんだと思っていたのだが、『それをすることで何の意味があるのか』という批判もあったらしい。また、良いと思っていた自分も、ブルーインパルスの飛行が医療従事者への敬意と感謝と示されたことに違和感を感じた。もちろん己の健康も危険にさらしながら懸命の治療にあたっている医療従事者へは感謝しかない。ただ、コロナウイルスで苦しんでいる、もしくは感謝を向けるべき対象は、必ずしも医療従事者だけではない。たとえば、配送業の方は、外出自粛の中増えたネットでの注文やテイクアウトへの需要に必死に応えてくださっている。こうした方も、配送しながらふと空を見るとブルーインパルスの勇敢な飛行に感動するかもしれない。外出自粛でストレスがたまっている人も、家のベランダからふと空を見上げることで勇気をもらった人もいるはずだ。つまり、ブルーインパルスの飛行は、対象を狭めるのではなく、コロナウイルスで不自由をしている国民全員を勇気づけるためにしていると言った方が良いのではないかと思っていた。

さて、この映画には「ハンズ・アクロス・アメリカ」を想起させる映像が何度も出てくる。ニューヨークからカリフォルニアまで約600万人が手を繋ぐチャリティー事業である。これに対して本作の監督は「目の前にある問題を直接解決しようとしないこと」に対して批判的に捉えている。

若干ネタバレになるかもしれないが、この映画の中で手を繋いでいるのは、心が通っていない人間だけ。ここに自分がブルーインパルスに感じていた違和感の1つの回答を示された気がした。自分も含めて心が通っていないんだと。味を占めて2回目を考えるのはやめた方が良いと思った。

格差映画としてもよくできている。同じ血が流れていても環境優位なんだと。環境が人を育て人を貶める、ここに格差が生まれる原因なんだと。お金の面、向けられる愛情の面、社会背景。良いメッセージだと思う。

前述したウサギやハンズ・アクロス・アメリカやハサミ、マイケル・ジャクソンなどのモチーフとなるものや、伏線となる台詞も素晴らしい。

ただ、メッセージが素晴らしいもののそこに繋げるまでのストーリーはやや強引かなと思わざるを得なかった。特に主人公一家はゆっくり時間が与えられるのに、周りはどんどん殺されていくのはどうなの?と思った。狂気だけで押し切るとそのメッセージは突き付けられないので、難しいバランスなんだろうけど… あと、子役の演技が不満でした。

とはいえ、一見の価値はある作品だし、事あるごとに見返さなければならない作品だと思った。

わたろー