「ウィックもアクションの構成も流転し続ける3作目。泥臭く骨太なアクションの進化が凄まじい。」ジョン・ウィック パラベラム すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
ウィックもアクションの構成も流転し続ける3作目。泥臭く骨太なアクションの進化が凄まじい。
◯作品全体
愛する妻を失い犬を失い車を失い…そして友すらも失ったウィック。自身を構成する何かを失いながら血だらけになって進む…その状況にふさわしく、アクションの組み立ても舞台もひとつの場所にとどまらず、その都度新しいアクションが飛び出してくる。ただただそのアイデアの豊富さに圧倒された作品だった。
舞台やシチュエーションが移り変わるアクションは今までの『ジョン・ウィックシリーズ』でも活かされていたが、その舞台やシチュエーションが持つ別の側面を見せ、アクションの手法を変えていたのが『パラベラム』の特徴だろう。例えば、序盤にあった武器の展示場のような場所でのアクションは、狭い通路と周りにあるショーケースを使った「体のぶつけ合い」から始まるが、中に刃物があると分かると今度は「凶器のぶつけ合い」へとアクションが変わる。モロッコでの「犬・フー」アクションは横軸にいる敵へ向けた変則的なアクションだったが、アクションの締めは縦軸にいる敵を犬によじ登らせて倒す、という戦法。定義づけられたアクションから脱却するような、アイデア溢れるアクションだった。
ウィック自身のアクションの構成も過去作品以上に多岐にわたる。『チャプター2』では柔術と組み合わせたアクションが多く、対銃のアクションは少しネタ切れ感があったが、『パラベラム』では柔術までの間に組み手があったり、周囲の物、さらには動物までも使ったアクションが出てきた。ウィック独特のフィニッシュムーブである「止められたナイフを力づくでねじ込んで倒す」も避けられるパターンがあったり、定番化してきたウィックの技が多様化したような印象を受けた。
別作品と比較しても「硬い」、『ジョン・ウィックシリーズ』の敵。その強度がさらに増し、むしろ強調されているのも、今までの『ジョン・ウィックシリーズ』からパワーアップしたと思わせる部分だ。「硬さ」が増した分、アクションの手数が増え、複雑さと泥臭さがなおさら重要になってくるが、この点は『ジョン・ウィックシリーズ』の得意分野と言える。ゼロとの戦いの前に二人の強敵と戦うアクションは、二人を同時に投げながらぐちゃぐちゃと絡れるが、体勢が整った段階ではきちんとウィックがシメている。計算された泥臭さが「硬い」敵を執念で押しつぶしているようで、骨太なアクションを上手く演出していたと思う。
一作目と比較すると破天荒さが増したアクションで、ウィックの境遇と同じくアクションの構成も流転につぐ流転。ただ、変わらずにあるアクションの軸も存在していて、劣勢に立たされたウィックがベルトを使って形勢を逆転させるアクションは「鉛筆一本で三人を瞬時に殺した」ウィックらしい戦法だ。
常人では打開できないシチュエーションをアイデアと執念でねじ伏せる。『ジョン・ウィックシリーズ』の肝となる部分を尊重し、そして巧みに展開させた本作だった。
○カメラワークとか
・前作までは赤色の見せ方も印象的だったけど、今作は青の強調が印象的だった。本作が「復讐」という憎悪の赤よりも、「喪失」の冷たい青を前に出そうとしているイメージ。
・終盤のアクションで印象的だった反射や錯覚の演出は『チャプター2』のラストを思い出す。終盤の舞台はどうしてもシンプルになるから、そこで工夫をしているのだろうか。ガラスを割るアクションの、音の気持ちよさもあるだろうか。
○その他
・ゼロ役のマーク・ダカスコスの眼力が印象的。敵役ということもあって『帝都物語』の嶋田久作演じる加藤保憲を思い出した。何も語らずとも眼力で圧倒してくる感じが、猛烈にかっこいい(日本語のセリフはちょっと残念な感じだったが)。
『パラベラム』は今までの作品以上に泥臭く、強引にでもねじ伏せるようなアクションが多い。『ジョン・ウィックシリーズ』の一番好きな要素なので、堪能できてよかった。個人的にはこの作品が現時点における対人アクションの頂点だと思う。