劇場公開日 2019年6月28日

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「善悪の二元論で語れない部分」新聞記者 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0善悪の二元論で語れない部分

2025年6月6日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

NHKがやる報道系のドキュメンタリー番組を映画にしたような内容で、確かに映画として見れば幾つか画期的な試みがある。

20年前に起きたようなことを、証言録取を基にして構成するような番組は、基本的に当事者がすでに亡くなっていたり、現場を離れていたりして取材が困難なことと、利害の対立がない分だけ忖度の必要がないメリットの両面があり、真相は藪の中というのが定番の決着だ。

この映画は、リアルタイムで起きている事件をモデルに現政権の問題点や疑惑を鋭くえぐっている。各方面から圧力がかかっても不思議ではなく、完成までこぎつけて公開したのだから、製作者の功績は認められて然るべきだ。

しかも日本アカデミー賞を受賞したとあっては2重の驚きだ。映画を潰しにかかれば逆に注目が集まる可能性があるだけに、黙殺されてもおかしくない。

私も、後乗りで、それほどの評価をされたのなら見てみようと思いWOWOWで録画視聴したクチで、熱心に追いかけたわけでも何でもない。解説の小山薫堂氏が明言していたが「女優は誰もオファーを受けなかった」とか「内容の切り込み具合に問題があり、民放テレビ局では放送出来ないだろう」などのコメントがさりげなく痒いところに手の届く話だったので興味深い。

さて、肝心の映画としての出来なのだが、『クライマーズ・ハイ』を基準にして考えたら、あの領域まで辿り着けていないと言わざるを得ない。時間が経てば経つほど色あせてしまう内容だ。あくまでも、現実に起きている事件を元に、人間の尊厳と正義を追求する新聞記者をていねいに描いてあるだけで、例えば新聞もニュースもほとんど見ない人種には価値のない映画だろう。

日本映画としては画期的、という注釈付きの映画で、政治に詳しい人から見たら、恐ろしく極端な二元論で語られていることに、逆に不安を感じるのではなかろうか。確かに、こんな映画は日本では見たことがなかった。

観客を、それほどまでに阿保だと決め付けてかかっているのか、それとも製作陣がキレイごととして信じ切っているのか。私には、前者に感じられたのだが。

うそつきかもめ