「大丈夫、君は僕のことが好きだよ」人間失格 太宰治と3人の女たち soleilヾ(´ε`○)さんの映画レビュー(感想・評価)
大丈夫、君は僕のことが好きだよ
蜷川作品の中では一番いい、うん。(まぁ原作の漫画がないからかもしれないけど)
賛否両論で酷評も多いけど、この作品は「太宰治の人生をフィクションで描く」ものじゃなくて、
一定量いる無意識にモテるダメ男とそれに傾倒してしまう3種類の性質のパターンを偶像化して映像にしている、て考えると合点がいく。
この作品に昭和初期の言葉遣いや雰囲気を求めてはいけません。だって、女にだらしない魅力的だけど才能がありあまるダメ男のイメージが「太宰治だった」だけだったんだもの。
太宰治をリアルなフィクションで映像化するなら、そもそも監督は蜷川実花は適任じゃないなんて、太宰ファンなら観る前からわかりきっているのでは?
蜷川実花は基本的に「20世紀を生きる今のオンナ達に向けてのメッセージ」を作品にのっける人ですよ。
それを念頭に置くと、
儚くて刹那的で破壊衝動という隠れ蓑を使って生きる意味を生み出す男前を演じるの、めちゃうまいよね小栗旬ってば。セクシーのかたまり。
奥様との愛があるからこそ浮遊感を楽しむ恋や、狩猟本能と承認欲求をこれでもかと貪れる愛人との遊戯は、ともすれば恋遊びが巧い男女は親から愛されていたんだろうな、と別の考え方ができて面白い。
そんでもって、複数の異性に種を残したい欲求は生き物の中にある本能だし、テーブルの下で誰にも気づかれないように手を握られるのは、ものすごい興奮するのよ。
本妻(宮沢りえ)の愛は、無償の愛。見返りを求めず、夫の幸せ(魂から湧き出る執筆作品を生み出すこと)がトッププライオリティ。愛人と出会しても、夫を第一優先。子供よりも。そこがせつないよね。
でも最後は気丈でした、夫の不倫自殺遺体が見つかった訃報を聞いても「やっと晴れたから」と洗濯物を笑顔で干す。自分で決めたことを子供の前でも正当化する静かだけど強い女、いちばんかっけえ。
2番目の愛人(沢尻エリカ)はあわよくば自分の承認欲求を太宰治に乗っかって充実させようという、自己愛スーパー強めの政治家タイプ。
3番目の愛人(二階堂ふみ)は、おぼこい純潔な子かと思いきや本質は依存度強めのメンヘラちゃん。現代でも一番ヤベェのがこのタイプ。でも最初は硬めだから、恋に落とすのが楽しいんだよね、戦争から帰らぬ夫を心に置きながらキスを拒否しても「大丈夫、君は僕のことが好きだよ」って言われて藤棚で抱えられたらキュンキュンしちゃうだろ!!!!!!!!
メンヘラじゃなくても男前にやられたらキュン死にするわ!!!!
男女の表現以外も、
太宰治の罪悪感を真っ赤なライトと風車と子供の群衆のけたたましい笑いで煽ったり、
人間失格を書く筆がのってる時の、青い空間で和室が分解していく表現とか、
蜷川世界だけど、今回は意味のある色彩を感じた。
ヘルタースケルターでもそうだったけどクライマックスに無音の何十秒かを設けるの好きだよね。CMで人の意識を惹き付けたければ無音を作れ、とはよく言ったもんだけど、あれ?また?って思っちゃった。
俳優陣でいえば、お約束の藤原竜也はもう役には見えんw 藤原竜也でしかない、もしくはカイジw
三島由紀夫が高良健吾だったのは美しかったなー。
インテリアや花畑も極色彩で美しかったし、静子も富江もキリスト教だったのね、富江の貧しい家の窓枠から漏れる光が十字架になってて、わかりやすかったw
最後の太宰治の訃報を聞いて家の窓を開けたら、燕子花がどーーーんと咲いてて、ああ、5月か6月に亡くなったのね、という時期がわかるのは良かった。
んが、庭って水張ってましたっけ?水の中で咲く花なんだけどな。という無粋は、まあ、置いとこう。