「濡れ場があれば色気を感じるわけではない」人間失格 太宰治と3人の女たち クロネコさんの映画レビュー(感想・評価)
濡れ場があれば色気を感じるわけではない
女たちの話だと思えば脚本は悪くないし、映像もさすがに綺麗でしたが、正直残念でした。
太宰の文学は昔から好きで読んでますが、神聖視はしてませんし、彼が今で言うダメ男だということもわかってるので冒涜されたとも思っていません。
けれど、主演された小栗さんからは太宰の作家としての孤独や、ふと魅入られてしまう死の匂い、それに比例した退廃的な色気などが全く感じらなかったです。痩せて吐血すれば死の匂いがするわけではないし、濡れ場があれば色気を感じられる訳ではありません。
私は小栗さんが嫌いなわけではないし、恋愛ドラマなどはとても上手だと思います。しかし今回は残念でした。全く感情移入できずにイライラしました。これは現代の話なのか?と何度も錯覚しました。
良くも悪くも彼は現代の恵まれた男の人で、それ以外の役を演じきる技術も、観客を引き込むだけの説得力を持たせる存在感もないのでしょう。
3人の女たちを描きたかったのでしょうから太宰にあまりにスポットが当たりすぎないように小栗さんに演じさせたのは間違えじゃないんでしょうが(例えば藤原竜也が太宰をやっていたなら存在感が強すぎて女にスポットは当たりにくかっただろうと思う。)、それでも題名「人間失格」で、主人公を太宰とするならばそこはせめてあの時代の空気を作れる力量の人に演じさせて欲しかった。蜷川監督が作り出した太宰像は好きだっただけに本当に残念です。
あの時代の空気や孤独を本妻を演じた宮沢りえさんとわずかな出演時間でしたが坂口安吾役の藤原竜也さんは持っていたと思います。そこは引き込まれました。
美しいと思う映像も、セリフも音楽もところどころあるのに、映画として物足りない。世界観が出来ていないのは残念だし映画って難しいのだなと思います。脚本も映像も美しいのにカメラワークやカット割りなどで流れがぶつ切りになって入り込めない部分が多々あったのももったいなかった。
太宰にもあの時代にも興味ない、映画も話題のものをみるくらいというそれぞれの俳優のファンは楽しめると思います。