「表も裏も」影裏 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
表も裏も
ヒューマン・ミステリーは好物ジャンル。賛否分かれた『友罪』も『楽園』も個人的にはなかなか見応えあった。
娯楽作が多い大友啓史監督がこのジャンルに初挑戦。
魅せられたという原作は芥川賞受賞作。初共演の綾野剛と松田龍平。話も見応えありそう。
岩手県盛岡市に転勤となった今野は、同い年の同僚、日浅と知り合う。地酒を呑み交わしたり、釣りをしたり、親交を深め、新天地で唯一心開ける存在となる。しかしある日、日浅が突然会社を辞め失踪。今野は日浅を探す過程で、親友の本当の顔を知る事になる…。
同世代屈指の演技巧者の2人。
綾野剛の繊細な演技。
松田龍平のミステリアスな人の二面性。
文句ナシの化学反応。
2人で楽しく遊ぶ姿は、素の2人を見ているかのようなナチュラルさ。
エンタメ派の大友監督だが、社会派ドラマ『ハゲタカ』やハード・スリラー『ミュージアム』も手掛け、初のヒューマン・ミステリーを手堅くこなしている。
夏のうだるような暑さ、美しい川のせせらぎ、不穏な空気…カメラウーマンの芦澤明子による映像も特筆。
キャストやスタッフは確かな仕事をしている。
が、作品的には『友罪』『楽園』ほどではなく、今一つだったと言わざるを得ない。
前半は2人の遅れてやってきた青春の日々が描かれるが、かなりスローテンポ。良く言えばじっくりと、悪く言えば退屈。
後半サスペンス的になっても、全体的に起伏に欠ける。
2人の友情と別離。
今野のある感情。(調べたら、原作では重要ポイント)
監督の出身地である盛岡。10年前の東北を舞台にしているので、決して風化させてはいけないあの自然大災害。(日浅失踪と関わる)
色々要素を詰め込んであるが、結局何を描きたかったのか、何を言いたかったのか、よく分からず。
初めて出会った時は、友達の居ない自分を気に掛け、フレンドリーに接してくれた。
が、一度会社を辞め、再会してからは、以前のように親密になれず。一度入った亀裂の修復は不可。営業の顧客になってくれと頼まれたり、何よりあの辛辣な言葉。
「知った気になんなよ。お前が見てんのは、ほんの一瞬光が当たったとこだけ」
「人を見る時は、その裏側。影の一番濃いとこを見んだよ」
これが、彼の本心なのか。
これが、彼の本当の顔なのか…?
よほど心が広くない限り、人には表と裏の二面性がある。誰だって。
どっちが本当の顔なのか…?
よく表向きなんて言い、裏の顔こそ本当の素顔と言う。
でも、あの時の顔が偽りだったとは思えない。
表の顔も、影裏の顔も、友を信じたい。