「「平和の来たらんことを…」」ふたりの女王 メアリーとエリザベス いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
「平和の来たらんことを…」
古いイギリスの城内での様々なシーンが興味深い。それは電気が無い時代だからこそ繰り広げられる蝋燭と蝋燭の合間の闇に蠢く思惑や企み。それが天井が高いだけにまるでビンの中で弾ける炭酸のようにそれぞれの生存競争が必死に行われていて恐ろしい。その中でも女王自身が意地とプライド、そして生き残りを賭けてのサバイヴ術が間髪いれずスピード感をもって展開されているから、スリリングたっぷりである。但し、余りにも怒濤の転換なので振り落とされてしまうのもしばしばである。特にこの時代の男の顔が髭面のせいか区別がつかず、例えばストーリー頭で、出戻りにくっついてきた従者の男と、後半周りに唆されてメアリーを手込めにする男は同一人物としての認識が怪しい。かなり時代背景を予習して置かないと理解に苦しむ展開でもある。
非情さ冷徹さも全面に押し出す演出は、迫力といたたまれなさがしっかり同居して押し寄せる内容だ。そしてこの淋しき戦いは現代でも全く変わることなく続いている事に暗澹たる心地持ちである。シーンも凝っていて、メアリーの夫に署名を迫る構図もまるでカラバッジョのような絵画を思い起こすようなものであったり、重厚さを表現した効果が素晴らしい。そう、今作品は、エンドロールに各キャストスタッフの署名が映し出される様に、とにかく“シグニチャー”が随所に出てくる。それ程“証拠”というものを取り付ける事が非常に重要なファクターであることが解る。二人の女王が結局邂逅したとしてもそれはそれぞれの背負ってるもののプライドにかけてのぶつかり合いなのでやはりどちらかの勝敗というのがついて回り、そして署名により雌雄が決まるのである。
今作は本来ならば英国版大河ドラマとして、1年を掛けて放映するような内容の作品であろうかと思う。それ位、ドラマティック且つテーマ性に富んだストーリーであるから、もっと掘り下げてよいシーンが数多いのだ。いとこ同士という間柄故に負けられない、しかしその背負うもの、立場は同一である故の親近感、そして同じ性としての対比。幾重にも連なる叙情詩である。