「『エール』に違和感を覚えた人へ、二階堂ふみはやはり異様のヒロインが似合う。映画としては野心的ながらもう一歩というところか。」ばるぼら もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
『エール』に違和感を覚えた人へ、二階堂ふみはやはり異様のヒロインが似合う。映画としては野心的ながらもう一歩というところか。
(原作マンガ未読)①手塚治虫原作のせいか昭和の匂いがする。スマホをガン見する人たちの群れが映るので平成以降に舞台を写しているんだろうけど。②思い返して見れば昭和の日本はまだ汚なかった(衛生的にという意味です)。平成→令和と続く中でいつしか日本は世界が認める清潔な国になってしまった(悪いわけではないけど)。③勿論その裏には表に出さない汚い日本は依然として存在しているわけで、映画はその都会の裏の汚さを執拗に映し続ける。③都会が何千万という人を消化した後の排泄物のような少女「ばるぼら」。見せかけの表面の裏に潜む醜悪さ・世の負の部分に惹かれるものは必然的に「ばるぼら」に惹かれるのかも知れない。④主人公の作家も蕭洒でリッチな生活のため人気はあるが読んだしりから忘れてしまうような官能小説を書いて金を稼いでいる。セレブな人たちとも付き合っている。しかし心の何処かで自分の居場所はそこではないと思っていたのだろう。そして都会の裏や陰な負の部分を体現している「ばるぼら」に惹かれていく、どうしようもなく。⑤如何にも手塚治虫のマンガに出てきそうなボブの女店員に迫られたところに「ばるぼら」が突然現れ女店員を強打したところ(殺すのかと想った)首がもげて実はマネキンだったのが分かる場面は手塚治虫らしい不条理なシーンで面白い。⑥男臭さをあまり発散させない稲垣吾郎に作家を演じさせたのでセックスシーンはあまり生臭くなり映画のバランスを崩していない。一方、澁川清彦扮する「愛」を説く純文学の作家は中途半端な描写で食い足りない。渡辺えりもコスプレした渡辺えりとしか見えず正しいキャスティングだったのか。脇役の女優陣はあんなもんでしょう。ラストの全裸の死体姿の二階堂ふみは手塚マンガっぽくって宜しい。⑦手塚眞の演出はプロの映画監督というより優秀な映画学科の卒業生みたいで一本調子なので大事なクライマックスが盛り上がらす(稲垣吾郎の演技が青臭く見える)映画として昇華しきれずに終わったのが残念。