「よみがえる性的衝動」ばるぼら Masuzohさんの映画レビュー(感想・評価)
よみがえる性的衝動
連休だしレイトショーで何かと思ったら
予告観て気になっていたのが近所で丁度やってたので観賞
神様手塚治虫が1970年代に青年誌に連載していた
きわめてアダルトな異色作の映画化
複数国共同製作で手塚眞が指揮を執っています
感想としては
・淀みのない緊張感を保ったカメラワーク
・倒錯もながら割とわかりやすい
・名だたる俳優陣の熱演に圧倒
・遠慮無いアダルト描写
とようここまでやりましたと言える内容
名声も地位も手にした作家美倉洋介は
どこか満たされず都会を徘徊していると
地下道の傍らに酒瓶を抱いてうずくまる女が一人
ヴェルレーヌの詩をつぶやいていた
その詩の続きを洋介が言いその女「ばるぼら」を
家に引き入れグラスをあおると
不思議と小説のアイデアがどんどん湧いてきます
ですがばるぼらはその小説を一笑に付します
その後欲情にかられマネキンや犬とまぐわおうとする
洋介をばるぼらはどこからともなく現れ助け
次第に洋介はばるぼらに惹かれていき
それまで周りにいた洋介を権力で囲おうとする
政治家の娘志賀子や
献身的な秘書の加奈子にめもくれないように
なっていきます
原作は未見なんですが
・「俺」と自称する
・同じ詩を知っている
・同じように酒を呷る
と言ったばるぼらのキャラクターから
ばるぼらは洋介の性的欲求の権化で自身が書き進めたい
官能的な小説のアイデアをもたらすイマジナリーな存在
であることが割と早い段階でわかります
原作はもっと具体化した存在だそうですが
これがすぐわかってしまう点がこの作品の
評価をどうするかは難しいところ
取り憑かれたように変化した洋介の生活は
黒魔術的な作用で周囲の人々を不幸にし
ばるぼらと激しくからみ合い結婚を約束します
捨てられた志賀子は腹いせにばるぼらとの婚姻を
権力で踏みにじり洋介を社会的に抹殺
それでも洋介は姿を消したばるぼらを求めさまよい
街をさまよい遂には見つけ出し逃避行を図りますが…
洋介は山奥にばるぼらと逃げるのち徐々に
生きること自体の意欲を失っていくとばるぼらが
首を絞めてきますがそれを払いのけると
ばるぼらはそのはずみに致命傷を負い
迷い込んだ別荘でばるぼらは動かなくなります
洋介は半狂乱になりそのへんにあった鉛筆と紙で
おもむろに小説「ばるぼら」を書きはじめそこで話は終わります
平静を装いつつ自らの歪んだ性欲に負けていく洋介を
演じたのは稲垣吾郎でしたが
ぱっと見しっかりしつつ脆さも兼ね備える難しい
役をうまく演じていたと思います
ばるぼら役の二階堂ふみはまさに体を張った演技
不穏で謎めきつつ不思議な魅力を持つばるぼらと
いう女性を演じきっていたと思います
倒錯した世界の描写はエロティックでありながら
クリストファー・ドイルの技法で非常に芸術的に
感じるもので没入感も十分でした
前述のようにばるぼらの正体が早い段階で
わかってしまった事がスリルを失っている気も
しますがスクリーン映えする面白い作品だった
と思います