「最悪のシナリオ」Fukushima 50 スコセッシさんの映画レビュー(感想・評価)
最悪のシナリオ
まず、この映画をどう見たのかお話します。
私はこの映画をエンタメ、ドキュメンタリー、ディザスターとして観ました。
震災後の原発事故を題材にした映画なので、もっとシリアスなドキュメンタリーだと思っていましたが、予想を裏切るエンタメ映画になっていたので純粋にドキドキハラハラしながら観れました。
一方で事実をベースにして作られていたので、10年前のあの事故を思い出しながら、ドキュメンタリーとして観ました。それまで語られなかった原発事故の内情や現場職員の奮闘が描かれており、当時の様子を再認識したドキュメンタリーでした。
そして、この映画は自然災害による原発事故という、いわゆるディザスター映画のようにも見えてしまったのは正直な感想です。
しかし、この事故の本当の原因は、東電幹部達の危機管理能力の欠如が招いた人災であった。
映画ではFukushima50と呼ばれた英雄達のストーリーが涙を誘いましたが、この映画が伝えているメッセージは自然の恐怖と自然を甘くみた人間の愚かさです。
結果的にこの事故による被爆被害はチェルノブイリ事故の1/4で済みましたが、2号機の格納容器が破壊され核燃料が全て出てしまう、いわゆる「最悪のシナリオ」と呼ばれる原子炉の圧力破壊が起きていたら放射性物質が全部出てしまい、東日本は壊滅していたでしょう。
このような恐怖感は同じ頃、総理官邸や吉田所長も共有していた訳ですが、当時の日本人はこの事実を伏せられていたので、その実態を把握しきれていませんでした。
それから10年経った今でも、なぜ2号機が決定的に壊れなかったのかは、十分解明されていないままです。
当時、菅直人総理大臣は、最悪の場合に何が起きるか具体的なイメージをつかむため、3月22日、近藤駿介原子力委員長に「最悪シナリオ」の作成を要請した。3日後の25日、『福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描』と題する資料が細野首相補佐官に提出され菅総理に報告された。この資料は閲覧後回収されて存在自体が秘密に伏されたが、2012年2月初めに、内閣府の情報開示で公開された。
この資料で示されたシナリオでは、1号機で再び水素爆発が発生した場合、放射線量上昇により作業員が全面撤退を余儀なくされ、他の号機への注水も止まり、4号機の使用済み燃料プールの燃料損傷が発生、使用済み燃料プールでコアコンクリート相互作用(溶融燃料コンクリート相互作用、MCCI)が発生する。この場合、4号機の使用済み燃料プールからの放射性物質の放出量が最も多く、避難規模を大きく左右することになる。その結果、チェルノブイリ事故で適用された基準を当てはめると、170 km圏で強制移住、東京を含む250 km圏で避難を求めることが必要になることが示されている。
菅直人も2013年11月8日、ハフィントン・ポストにて、最悪の場合、東京を始め首都圏を含む5000万人の避難が必要となる可能性があったと述べた。
このような世界史上、類を見ない大事故が起きていた事がリアルに描かれた映画であり、最悪のシナリオを奇跡的に回避したドキュメンタリーです。
映画の完成度は高く日本映画としては楽しめましたが、再三の指摘がありながら福島第一原発の脆弱性を無視し続けた、東電幹部の危機管理能力の低さが招いた人災であったという事を改めて強く認識しました。
原子力エネルギーに頼った我国は、今もそのリスクが残り続けており、自然再生エネルギーへの転換の中でジレンマとして抱え続けている。
制御仕切れない原子力という、いわば神の力と人間の欲望が対立するのか共存するのか、日本の未来はその答えをまだ見出していない。
この教訓を日本はどう活かしていくのだろうか。。。
残念な事に安倍政権から菅政権になってからも、杜撰な危機管理は変わっていない。
東電の廃炉計画もだんだんと緩んできて、原発事故の恐怖と危険性を本当に理解していたのは当時の吉田所長と現場で悪戦苦闘していた作業員たち位であり、遠く東京の空のもとで身の安全を保障されていた政治家・官僚・東電幹部はそのリアルを理解していない。
それは10年たった現在でも大きく変わらず、デブリの最終処理や汚染物質の処理方法も決められない連中が、早くも原発の経済性やCO2排出対策で原発の復活を臆面もなく言い出す始末。
再び同じような事故が起きてもおかしくない。