「未曾有」Fukushima 50 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
未曾有
戦慄する。
なんの助走もなし、いきなり押し寄せる津波から本編は始まる。
何年も経ってはいるが、あの時に感じた揺れと恐怖は、今も鮮明に思い出せるようだ。
観客というまるで外野な立場なのに、映画館から逃げ出そうかと思った。
時系列がほぼストレートで分かりやすい。
何が起こりどうなったか、それによって次に何が起こっていくのか。
それを防ぐ為にどおしたか、それは有効であったのか、次の一手はなんなのか。
当時はニュースで連日報道されてた。
おそらくならば分かりやすく詳細に伝えてくれてたとは思うのだけど…ちょっとその報道の仕方に疑問も持った。
素人には分からないのだ。
今のコロナの報道のされ方と似てる。
事実を報道しコメンテーターが感想なりなんなりを述べる。素人目線のコメントはそのまま大衆側の意見なのかもしれないが、それは予期せぬ同調を拡大していき扇動に匹敵もする。
…報道の体質って変わらないのだなぁと変なとこに落胆する。
ただ、東北大震災がもたらした福島原発での災害はとんでもない規模の事故であり、日本という国が無くなる一歩手前までいってたんだと震え上がった。
そんな規模の事故だった割には冷静であったようにも思えたので、報道番組の報道姿勢は的外れでもなかったのかなぁとも思う。
建屋内は壮絶だった。
冒頭の津波など霞む程の出来事が次々に起こる。何度も瀬戸際まで追い詰められる。常に崖っぷちだ。
ドラマだから脚色はあるとは思う。だけども当時の記憶が残ってる。
確かに爆発した。
何度も余震を感じた。
連日の報道内容が思い出される。
…あれに近しい事は起こってたんじゃないのか?現場の人間が命がけで止め続けてたんじゃないのか?破滅に傾く天秤を命を重しに堪えていたんじゃないのか?
ホントに感謝しかない。
ベントを人力でやるなんて、海外からしたら「神風スピリット」とか揶揄されるんじゃなかろうか?それともクレイジーだと非難されるのだろうか?
…それでもなんでも、僕らは生きてる。
現在の東京はコロナウィルスの脅威に晒されながらも消滅はしていない。
メルトダウンによる核融合炉の爆破が起こったら半径250kmに死の灰が降り注ぐ。
チェルノブイリの10倍らしい。
背筋が凍る。
それを彼らは防いだ。
所員を守り、その延長線上にあるものを守った。それは国かもしれないし、それ以後に生まれてくる生命かもしれない。
今年、娘に子供が出来た。女の子だ。
俺の孫だ。
あの原発事故が最悪の結果であったならば、俺は孫に会えてないかもしれないし、孫も生まれては来なかったかもしれない。
どっちに転んでもおかしくない状況で、その瀬戸際までいってた。
僕らは助けてもらったのだ。
それに比べて政府の無能な事…。
まあ、このあたりは現政権とは別の政党の時代だったので妙なプロパガンダが含まれてないとも限らない。
ただ、そう大差はないだろうと思う。
見下してる。へつらってる。現場の経験値を信用してない、託せない。
政治家なんて誰も大差などないだろう。
本社の人間が履き違えてる危機感とか、ある意味人災だったのかと思える節もあったりで、孤軍奮闘の現場に同情した。
彼らはまごう事なき英雄でありながら、悲壮感が漂うところにリアリティを感じてしまう。
アメリカのようにヒロイックなものでは決してなく、揺れもするし、関西人特有のユーモアまで持ち合わせてる。
日本人らしい造詣に好感がもてた。
ただ、好みだとは思うけどBGMは余計だったと思う。感動を促して欲しくはなかった。
戦いの記録で良かったんじゃないかと思う。
架空の人物の目線で語られた物語ではなく、実際に未曾有の二次災害を食い止め、命をかけて抗った人達の物語だったのだから。
この映画が作られて良かった。
2度と起こらない事を祈るとともに、今も尚、現場で戦っている人達へエールを送りたい。そして彼らが繋いでくれた生命を後世に繋いでいく事で、彼らに報いたい。