「現場で働く者の矜持」Fukushima 50 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
現場で働く者の矜持
開始早々、東北沖で地震が起き、あの日の忌まわしい記憶が蘇りました。あの日、福島から遠く離れた地にいたにもかかわらず、3階にある職場でかつて経験したことのないような気持ちの悪い揺れを感じたことを今でもはっきり覚えています。そして、その後の津波、原発事故等の一連の報道を思い出し、胸が締めつけられて苦しくなりました。
物語は、津波に襲われ、機能不全に陥った福島原発の職員の命がけの奮闘を描いており、最初から最後まで一時たりとも目が離せませんでした。予告を見た時からすでにうるうるしていたので、当然のことながら上映中は涙が乾く間もないほどでした。
それにしても、当時あれほど連日連夜報道されていたにもかかわらず、あの時に福島原発でいったい何が起きていたのか、自分は全くわかっていなかったと、今さらながら反省しました。現場にいない人間が、あれこれと勝手なことを言うのは、あの事故に限ったことではないと思いますが、本作ではその象徴として、無能で身勝手な首相と政府と本店の姿がひたすら描かれています。そんな政府や本店に憤りを感じてはいたものの、当時あの事故の報道を見ながら「早くなんとかしろよ」と思っていた自分も、実は彼らと大差なかったのでないかと思わされました。
ただ、本作で描かれている姿も嘘ではないでしょうが、描かれていないところでは何が話し合われていたのかも気になるところです。本作は徹底して現場サイドの目線で語られるため、ともすると見方が偏ってしまいそうです。あの時、政府や本店の人たちも、事態収拾に向けて必死で戦っていたと思いたいし、もしそうなら、その場面も描いてほしかったと思います。
結果として、現場で働く職員の命がけの働きが奇跡的に日本を救ったわけですが、やはり核をコントロールできているという慢心やこの施設は大丈夫という過信は、捨て去らねばなりません。原発に限らず、社会で働く誰もが、誰かの役に立つ大切な仕事に携わっているのですから、今一度その仕事の重要性を自覚し、そこに携わる者としての矜持を貫きたいものです。