劇場公開日 2020年3月6日

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「現場の熱意は伝わってくるがドキュメンタリーとしては不十分」Fukushima 50 みりぽんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0現場の熱意は伝わってくるがドキュメンタリーとしては不十分

2020年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

難しい

現場の人の必死な活躍はよく伝わってきた。
何か隠蔽しているのではと原発の作業員に向けられた言われなき中傷は払拭できたのではないだろうか。
官邸からの横槍に抗いながら現場の英雄の活躍で日本崩壊を防いだというシナリオは決して作られたものではない真実である。
しかしベストな判断ができたとはいい難いのが今日までの検証で判明している。

まず肝心の全電源喪失(SBO)についてのマニュアルそのものが無かったという致命的な欠陥が激甚災害への道を辿ることになる。
海抜30mの高台を削ってまで低地に原子炉を置いたのは何故か。
非常電源装置だけでも高台に作っておけばよかったのでは。
冷却配管の耐震性に不備があった点。
メルトダウンが進むと機能しないSR弁の構造的な欠陥など枚挙にいとまがない。
今までドキュメンタリー番組で指摘されてきた原発の不備については特に言及されてはいなかった。
車のバッテリーをつなぎ合わせてSR弁を動かすシーンも、現場の方々の協力で迅速に行われていたように見えるが、実際には対応する12Vのバッテリーが小名浜で足止めされ現場に運び込むことができなかった。
既に原発周辺は基準値を大きく超えた線量となっており、うかつに近づけなかったからだ。
2号機の破滅的な結末が訪れなかったのか、という点も謎のまま分かっていない。
なんとなく奇跡的に建屋に穴が空いて水素爆発を抑えこんだ程度であまり深く踏み込んでいない。
迫真の演技の裏に、解明されていない謎が多いことに少し疑問を感じる。

その後病気で亡くなられた吉田所長には哀悼の意を表する。そして事故対応に当たった作業員の方々には感謝したい。
しかし真相が現場の人が頑張ったのだから仕方がないという論調で闇に葬られてしまうのは今後の原発の運用に少し影を落とすと思う。
原発そのものには反対ではないが、信頼性を大きく損なう結果になったのは残念である。
その原因は事故に対する認識が甘かった東京電力にもある。
今後はこの事故を教訓として、いち早く収束できるよう様々な対策を講じる必要がある。
やはり原発なくしては日本のエネルギー事情を解決できないのは事実である。

私が本当に描いて欲しいのは美談ではなくこの事故を今後に活かすことである。
最後の東京オリンピックのくだりは商業的な匂いが伝わってきて少し冷めてしまった。
コロナがなければこの映画が前座として盛り上がっていたんだろうなと思うと改めて人間の無力さを痛感する。
万が一オリンピックが中止になったら実にお寒い作品になってしまうのではないか。
今回も対応をしっかりとしていたらこんなことにはなっていなかったと思うとなんとも皮肉な結果である。

みりぽん