劇場公開日 2020年3月6日

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「風評被害が拡散しないか心配」Fukushima 50 コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)

0.5風評被害が拡散しないか心配

2020年2月23日
iPhoneアプリから投稿

試写会で拝見。
放射性物質と放射能の区別がつかない「原発の専門スタッフ」たちのセリフに????の嵐。

風評被害促進案件ではないかと、心配になりました。
放射能デマ系な、恐怖の煽り文句「原発事故で福島は人の住めない町に」を連呼。
全てが吹き飛んでフクイチから半径250Kmが汚染された最悪のケースを想定したシーンが、「銀座に死んだ烏、舞い降りる死の灰」って感じ……
そんな具合に、原爆と原発事故の表現を同一にしてるし。

放射線量増加の対応についても、途中からおざなり。
水素爆発も、水素が炉内で発生した理由の説明はなく(燃料棒を覆う保護金属ジルコニウムが高温時に水と反応して水素を生み出すはず)、「炉心融解が進むと高温で圧力が高まって即爆発」という、なにもわかっていない感がすごい表現に思えました。

また、東日本大震災における津波のメカニズムは、断層のズレから生じた水平移動と隆起、ズレの摩擦発熱による間隙水圧上昇現象で、海水面の高さが上昇し、平野の「水没エリアが拡大」したはず。
仙台空港や、東北各地の海岸線押し寄せた津波の映像を覚えているなら、「街が徐々に水没して、ゆっくりとした水のうねりが車や家を押し流した」のは知っているはず。
せいぜい、原発エリアのうち十数メートルの岸壁がある部分に、波が激しくぶつかっている動画があった程度で、全域に高波が押し寄せたわけじゃない。
なのに作中では、TV版『日本沈没』みたいに、海底に亀裂が走り、マグマが溢れ。
『未来少年コナン』のハイハーバー編みたいに水が海岸線から引き。
『ビッグ・ウェンズデー』みたいな大波が襲来。
頭が痛くなりました。
これを「事実に基づく」というのは、いかがなものかと。

震災の数年前に原発の電源喪失の危険性を指摘した野党の質問を当時の首相が「万全」と一蹴し、東電の現場技術陣からは大雨で過去発電機が冠水した経緯から改善要望をしてもトップが経営判断で突っぱねた経緯は、オールスルー。
吉田所長も、改善拒否に賛同した人だったはず(最大津波想定が10mで15mは想定せず、また東電単体では資金面で対策ができなかったことを後悔している記述は、手記や調書に残っている)。
政府や経営トップと、部下や住民の板挟みになっていながら、様々な判断を強いられた所長や当直長の悲憤を描く…って、戦争映画におけるヒーローみたいな美談に落とし込まれているのに違和感。
「祖国や家族を守るために、戦闘機で特攻」を美化するのと、全く構造が一緒。

そして、震災当時の首相をひたすらdisる(まぁ確かに直情的で罵ることしかできない無能でしたが)手法に、よほど現在の経産省や文化庁から協賛や賛美がほしいのかなと穿ってみたくなる、偏ったシナリオに感じました。

まだ、被害は継続し、復興もフクイチ解体も道半ばなのに、もう終わった的な桜のエンディングに呆れもしました。
あの桜並木が、帰宅困難地域のものであったのならば、「本当の事故処理の戦いはこれから何十年も続く」という決意のセリフが無いと嘘だろう、と。

一応娯楽作品と銘うっているので、他の観客がどう受け取ろうが自由なんだけど。
福島、吉田所長、という名前を使う以上、「フィクション」「ドラマ」という逃げは、私にはまったく響かない。そもそも、原作は自称「ノンフィクション」だ。
これが別の架空の県、別の名前ならともかく。

そして、ドラマとはいえ感情に流されたまま自己犠牲を美化し、それに感動しちゃう風潮は、私は苦手だし怖いと感じちゃう。
何より、そういう作品を面白いとは思えないのでした。

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コージィ日本犬