劇場公開日 2019年2月22日

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サムライマラソン : インタビュー

2019年2月22日更新
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佐藤健&森山未來が驚き、戸惑い、試行錯誤を繰り返した時代劇の現場とは?

佐藤健は「あんなにはちゃめちゃな撮り方をしていて、映画としてまとまることにビックリした」、森山未來は「その場その場でつくったセッションが、ドキュメンタリータッチの映画になって返ってきたみたい」と評した。共に英国のバーナード・ローズ監督に向けられたものだ。「枠にとらわれないでくれ」という奔放な演出に驚き、戸惑い、試行錯誤を繰り返した末に「サムライマラソン」は生み出された。だがそこには、外国人監督による日本の時代劇という概念を軽々と超える映画的マジックが詰まっている。(取材・文/鈴木元、写真/根田拓也)

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時代劇という以前に、海外スタッフとの仕事が大きな動機になったという佐藤。小松菜奈、長谷川博己ら共演者にも魅力を感じていた。だが、撮影現場では「まさか、あんなことになるとは…」とこれまで培ってきた時代劇のイメージを覆される。

「僕らは時代劇だから、時代劇的な芝居をしがちなんです。でも、バーナード監督に言わせると江戸時代を生きた人間を表現しているのではなく、単に時代劇っぽい芝居をしているだけ。江戸時代に生きた人間を見たことはないだろうと。できるだけ自由にやらせたいということは理解しながらも、かといって崩壊しすぎるのも自分のキャリア的にどうなんだろうと(苦笑)。そのせめぎ合いが難しくもあり、楽しいところでもありました」

ローズ監督は脚本にも参加し、全キャストによる本読み(脚本の読み合わせ)も行われた。終わって口にしたのは、「(脚本を)燃やすなりなんなり、捨ててくれていい」という仰天発言。これに森山が補足する。

「一応、書かれている通りに撮っていくけれど、セリフを言いたくなければ言わなくていいし、別のことをしたかったらしてもいいと。僕ら人間のエネルギー、力みたいなものを見たいから、細かいことは気にせずやりたいようにやってくれみたいな感じでした。それに対して皆のアプローチが違うので、異種格闘技戦のようでした」

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黒船来航に揺れる江戸幕府。これを米国の侵略と読んだ安中藩主の板倉勝明は家臣の鍛錬のため遠足(とおあし)の実施を宣言する。幕府の隠密の唐沢甚内(佐藤)、野心家の辻村平九郎(森山)らがそれぞれの思いを胸にスタートするが、これを謀反の動きととらえた幕府は安中に刺客を送り込む。

山形・庄内でのオールロケで段取り、テストは一切なし。不順な天候もおかまいなしで、常にカメラを回し続ける。佐藤が面食らうのも無理はない。

「もしこのやり方でいい映画が撮れるのだとしたら、今まで僕たちが気にしてきた細かいことは何だったんだというくらい違っていて、大混乱に陥った現場でした。何をしてもそれはやめてくれと言わないし、ずっと撮るんです。役者陣はそれを楽しめる人が多かったので、監督にばれないように水面下で話し合いはしましたが、本番が始まると全然違うことが起きるなんて茶飯事でした」

加えて遠足というだけあって走るシーンも多く、江戸に向かった飛脚を追いかけ畦道や森の中をひた走る一連の場面は「マジで死ぬかと思った」と漏らす。

「獣のようにすさまじいスピードで甚内が走っていくとト書きに書いてあったので、猛ダッシュをするつもりで長くても50メートルくらいをイメージしていたら、500~600メートルあった。疾走はできないと思いながら意地でやってぜえぜえしながら戻ってきたら、撮れていなかったって。それでもう1回やってOKだったんですけれど、じゃあ100メートルくらいで止めてよって話ですよ(笑)」

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この話を笑って聞いていた森山は、映画での時代劇は初めて。走る量はそれほどでもなかったそうが、殺陣や乗馬の練習も積み、谷底に突き落とされずぶ濡れになる場面もあった。

「庄内なのでどんどん寒くなってくる。基本的に遠足用の格好をしているからそんなに厚着はしていないんです。特に僕は(上半身が)はだけるし、気温もどんどん下がっていくから一人トライアスロンみたいになっていました」

だが、「彼なりに日本の検証もしていたし、破壊の仕方も考えていた。やろうとしていることがすごく面白そうだった」と、ローズ監督の思いをくみ取り「攻め」を意識する。その契機は撮影序盤、勝明の遠足宣言シーンで訪れた。

「どこかで仕掛けていきたいなと思っていて、タイミングを探っていた時に博己さんがかなりセリフを変えてきて、ト書きにあるものとは違う動きをしていたので、それが僕にとってもいいスイッチだったんですよね。これでいけるんやったら、全然いけそうやなというのがあったので、好きなことしかやっていなかった。後から冷静に考えた時に大丈夫やったかなとちょっと思いましたが、その時はやってまえという感じでしたね」

その姿勢に、佐藤は感謝することしきりだ。

「森山さんが劇中でしゃべっているセリフの8割は自分でつくっていますから、それは頼りになりました。そうやって役者が自分たちで考えていかないと、シーンとしても映画としても成立しないんです。それをかなり率先してやってくれたので、映画自体を助けてくれたかなりの功労者です」

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対する森山も、佐藤の座長としての立ち居振る舞いを絶賛する。

「無茶は、ボスというか地に足の着いている人がいないとできないんです。乱れに乱れた現場だったので、健くんが主役として冷静にどっしり構えていてくれたのが救いでした。すごく対照的な役割を担っていたような気がします」

佐藤が「現場で手応えを感じていたのは監督ただ1人」と苦笑交じりに明かしたが、完成した「サムライマラソン」はアクションあり笑いあり、それぞれの個性が際立つ多彩な群像エンタテインメントとなった。そした、「オンリーワンの演出家」と声をそろえ、ローズ監督へのリスペクトを強調した。

佐藤「彼の中にある映画作りの確固たる哲学を聞けて、実際に彼の下で芝居ができたことはこの先仕事を続けていく上でもいい経験になったし、糧になると思います」
 森山「彼のエネルギーはすさまじかったし、それに乗っかって正しかったですね。映画の持つエネルギーというか画(え)の力で突破していった面白さがあった。フィリップ・グラスの音楽も、何かを統制している気がしました」

映画は国境を越えることを実践した充実感が、2人の納得した表情からうかがえた。

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