劇場公開日 2020年9月4日

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「スケートボードで風を切る爽快感に慰められ、テクニックを磨くことで成長を実感する少年たちの友情」mid90s ミッドナインティーズ Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5スケートボードで風を切る爽快感に慰められ、テクニックを磨くことで成長を実感する少年たちの友情

2021年9月2日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

何て瑞々しい映画だろう。90年代半ばのロサンゼルスを舞台に、スケートボードに夢中になる13歳の少年スティーヴィーの愛に飢えた焦燥と夢の爽やかな青春スケッチの映画グラフィティ。物語の内容は、不良少年たちの猥雑で幼稚な会話の低俗さ、酒・タバコやドラッグに溺れる自暴自棄な私生活の乱れ、性への赤裸々な好奇心、と非道徳を絵にかいたような話でとても気が滅入るし、全く爽やかではない。それでも、主人公始め13歳から17歳の少年たちが、貧困や虐待、ネグレクトなどの逆境に悩み苦しみながら生きる術を探る姿を、スケートボードを介した友情物語にした監督ジョナ・ヒルの視点が常に温かく、それが映画演出のこころを持っているのがいい。それ故、主演のサニー・スリッチの少年らしい表情は自然で衒いが無く、レイを演じたネイケル・スミスは作品全体の演技を下支えする好演をみせて、ファックシットなんてニックネームを付けられた役のオラン・ブレナットはそれらしく演じているし、先輩面と嫉妬の微妙なルーベン役のジオ・ガルシアと映画のエンディングを決めるフォース・グレードのライダー・マクローリンも役を全うしている。スティーヴィーの兄イアンのルーカス・ヘッジスも、複雑な家庭環境を窺わせる少年の懊悩を好演している。

映画は、ファーストカットで凡そのその良さが解る。小説好きな人が最初の1ページで作品の好悪と良し悪しを判断するように、映画も数を熟せばある程度予測が付く。スティーヴィーの最初の登場シーンが衝撃的で思わず見入ってしまったが、この冒頭の一方的な暴力シーンから始まるスティーヴィーとイアンの描写は素晴らしい。それは、観る者の想像力を刺激して、何故なのか、どうしてなのかの好奇心や関心を誘うからだ。イアンの部屋は趣味の音楽やお気に入りの物で溢れて、尚且つ整理整頓されている。次のシーンで母ダブニーとの会話から、17歳でイアンを出産したことが分かり、後でシングルマザーで二人の男の子を育てているが、男の出入りがあるのが描写される。そんな母親を二人は心から敬愛していない。それ以上に兄弟仲が悪いのは何故なのか。父親が違うのか。母親が、弟より兄を溺愛しているから兄の部屋が物で満たされているのか。それともイアンの実父が養育費を定期的に送っているのか。それらを想像しながら二人の言動を観ると最後まで映画は楽しめる。観る者の好奇心を刺激する映像表現の技巧が成されているからだ。

演出の良さと共に、音楽の選曲の面白さや映像との調和も良かった。90年代のポップミュージックに詳しくないので上手く説明できないが、演出タッチを補足するようなBGMが効果的に使われていた。スケートボードで風を切る爽快感に慰められ、テクニックを磨くことで成長を実感する若く幼い少年たちに寄り添うように映画を作った青春映画の佳編。この作品を観る限り、ジョナ・ヒルの映画愛と才能は若いだけに、これからも期待できるのではないかと思った。

Gustav