「笑っていいのに、笑えない」バイス andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
笑っていいのに、笑えない
今のアメリカ副大統領って誰だっけ...?となるくらい陰が薄い副大統領(正解はマイク・ペンス)の中でも、私も名前は知っているディック・チェイニーの伝記映画。
伝記映画、といっても基本は映画ならではのコメディである。第三の壁破りまくっているし、語りの謎とか、いちいち増幅された政治家たちの滑稽さ...(しかし”True story”なのである...)。特にブッシュ元大統領はあんな感じでいいのか。サム・ロックウェルの頼りなげっぷりは凄かったが。
しかし、なんとも笑うに笑えないのはなぜか。非常につくりは面白いのに、笑うに笑えない。「権力」を掴んだ者がその力をいかに制御して使わなければならないのか、のお手本みたいな映画だ。自分の望む方向に情報を捻じ曲げていくことだってできるのだ。そしてある意味、どんな人間でも権力を掴むことはあり得るわけだ。そこでディック・チェイニーのようにならずにいられるのか。考えてしまう。戯画化されてはいるが実在の人物たちなのだ、と思うと、素直に爆笑もできず...。
体型を操る俳優クリスチャン・ベールは後半まったくクリスチャン・ベールに見えない渾身のなりきりぶり。ウィンストン・チャーチルを演じたゲイリー・オールドマンに「何kg太ったか」と聞いたら「太ってない」と言われてびっくりしたエピソードには思わず笑ってしまうが、身体のことも考えて体型変化はほどほどにしてほしいような、渾身の演技を見せてほしいような。他のキャストもなりきり&振り切りぶりが半端ない。役者というのは変幻自在だな、ということを思った。