「翻弄される黒人恋人たちの悲劇」ビール・ストリートの恋人たち しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
翻弄される黒人恋人たちの悲劇
二つの時間軸が、代わる代わる進められていく。
一つは回想。幼馴染みのティッシュとファニーの、恋愛への心情や関係の変化が、ゆっくり丁寧に描かれていく。
見つめ合う表情、躊躇いながら身体を重ねる様子など、拘りを感じる丁寧な表現で、恋愛ものとしては好感が持てる。
が、私は恋愛ものが苦手というか、あまり興味がないのだった。恋愛が丁寧に描かれるが故の退屈。これは個人的嗜好なので仕方ない。
もうひとつが現在、ファニーの巻き込まれた冤罪事件と、身重ながらその解決に奔走するティッシュや家族の様子が語られる。
異なる人物設定であれば、クソ警官の不正で済まされそうな話だが、二人が黒人である事で、局面が深刻化している。黒人である為だけに受ける謂われなき差別、侮蔑、不当な扱いへの苦しみが、時に現実の映像を交えて訴えかけられる。
こちらの描き方が少々中途半端。恐らく重くなり過ぎない表現ラインを探ったものと思われるが、恋愛ものの側面に食われぎみだし、語られずスルーされた要素も多い。ダニエルはどうなった、弁護士の奮闘の詳細は?
また、二人の父親の「白人が俺達の財産を盗んだんだ、俺たちにも出来るさ」発言からの、商品の窃盗横流しなど、どうしようもない現実と辛苦を訴えたいのは解るが、被害者側の意識に寄りすぎて些かバランスに疑問を覚える部分も…。まあ、受け取る側によって感情の変わるデリケートな問題とは思うが…。
黒人である二人に好意的な黒人以外の面々の殆どが、ユダヤ人など結局マイノリティ側であるのも、差別問題の根の深さを感じる。黒人問題で描かれる善人な白人は、度々批判的な指摘を受ける。繰り返し取り上げられる黒人差別だが、とりわけ扱いの難しいテーマでもあるよなぁ。
画の撮り方、色合い、暗さと光の美しさなどはとてもお洒落で美しい。
それだけに、お洒落で大衆に受け入れられ易い恋愛ものに、アカデミー受けする黒人問題を盛り込みました、というようなむず痒さを感じるのは、ちょっと意地の悪い邪推かな。
二本立てで、「マイ・ブックショップ」と立て続けで、人間の悪意と不正の横行する現実を見せつけられたので、大分がっかりしょんぼりしてしまった。
無邪気に逞しく育つ子供と、不正は正せなくとも心は屈しないぞ、と立ち直ったファニーの生気ある表情が、唯一の僅かな救いだろうか。