「眩く美しい詩情と人種差別への憤りの対比」ビール・ストリートの恋人たち だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
眩く美しい詩情と人種差別への憤りの対比
冒頭でティッシュとファニーが手をつないで公園の階段を降りてくる。
カメラが斜め上から2人を捉えはじめ、2人を中心にカメラは回転、頭上から見下ろし、やがて背中を捉える。
このシーンでわたしの心はぎゅぎゅっと掴まれました。
切なくて美しくてささやかな目には見えない何かが、画面に見えた気がして、一気に引き込まれました。
あぁ、見に来てよかったと思いました。
その後夢中で見ました。
この作品について、苦手との声も聞こえてきます。
眠い、なに言ってんのかわかんない、シーンが冗長etc
そっか、わたしにはどストライクでしたし、そこがいいんじゃんよって思いますが、好みはいろいろです。
ジェイムズボールドウィンを読んだことはないけど、彼を材にしたドキュメンタリー映画『わたしはあなたのニグロではない』を見てます。その時の印象は、ボールドウィンは怒れるペシミストやなってことでした。わたしも自称怒れるペシミストなので、シンパシーを感じました、勝手に。
ですからボールドウィンなのできっとファニーが釈放されるとかってゆう、観客が喜ぶ筋は絶対ないと思ってました。ええ、その通りです。
めちゃ悲劇で終わるわけでもないけども、始まりから終わりまで、いわれのない罪をなすりつけられたまま、ファニーは生きている。囚われたままで。
そんな結末にげっそりする気持ちもわかります。
が、無実で誠実な若者が、濃い色の肌をしていたというその事だけで卑怯な罠にはめられる、そんな(アメリカ)社会を批判している作品なんで、観客は気持ちよくなってはいけないんだと思います。気持ちよくさせては作った甲斐がないんです。特にボールドウィンが怒ると思う。
『ムーンライト』でも映像が雄弁で、登場人物の瞳から感情が見えて、光も印象的でした。そういった作家性がより強く感じられ、バリージェンキンスは今後の作品を必ずチェックする監督リストに入りました。
彼の作る映像は見ていると切なくなります。併せて悲しみと怒りも甘さと共にあるというか。
常に鼻の奥がツンとして、目が潤むような気がするんですよね。
作家の山田詠美が好きなんですが、彼女の文章と似た印象があります。彼女の描くアメリカの恋人たちとファニーとティッシュは重なりました。
ファニーのお母さん、なかなかの曲者でした。ティッシュのお母さんとの対比が辛かった。
ファニーのお母さんも、ああなりたかったわけではないんじゃないかな。
ティッシュのお母さんはたしかによかったし、プエリトルコでのシーンはどれもよかったけど、オスカーとるには影薄い気がしました。