「怒りも嘆きも全て現実で全てが詩」ビール・ストリートの恋人たち 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
怒りも嘆きも全て現実で全てが詩
「ムーンライト」の時にも思ったことだけど、バリー・ジェンキンスの映画は本当に詩的である。特に前半部分。映画を見ながらまるで詩集を読んでいるかのようだな、と思ったほど。恋をした若く美しい男女の姿が映される回想シーンなど、どの瞬間を切り取っても額に入れて飾って置きたいほど綺麗で、映像そのものが詩そのもの。そして詩のように美しい回想から呼び戻された現実の厳しさに胸を打ち抜かれる。その連続。
この映画は、物語が後半へ進めば進むほど、バリー・ジェンキンスの怒りがどんどん明るみになってくるようでもあった。黒人であるということや、アメリカで黒人として生きるということがどういうことであるかを克明に描き出し、その不条理を真正面から訴え嘆きそして憤怒しているのが伝わった。「ムーンライト」でも黒人へ向けられる目の冷たさや同性愛者であることの過酷さが描かれていたけれど、この「ビール・ストリートの恋人たち」はもっとあからさま。ストーリーを飛び越えて露骨に白人をディスっている節すらあったほど。切ないラブストーリーに見せかけてかなりタフな社会派のメッセージを力強く投げかけていた。
原題を直訳すれば「ビール・ストリートが話せたら」となる。アメリカに暮らすすべての黒人の故郷である(とジェームズ・ボールドウィンが綴った)ビール・ストリートがもし口をきけたなら、だれにも聞き入れられることのなかった黒人たちの切なる思いを代弁し、主張し、証人にもなってくれただろうに・・・という黒人たちの嘆きがこの映画には込められていると感じた。
それでもやっぱりこの映画は「詩」だと思う。「怒り」さえも詩であるし「嘆き」さえも詩。映像を使った壮大な詩。メッセージも詩。決してロマンティックという意味ではないし、夢想的と言う意味でもない。ただ美しいだけではなく、現実をしかと見据えた奥深い詩。
加えて、主人公ティッシュ役のキキ・レインが纏っていた衣装が時代性も含めてとてもお洒落でキュート。いつどのシーンでも洗練されたレディのファッションをしていて実に素敵だったので、そこにも注目されたい。