劇場公開日 2019年4月12日

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「どす黒い過去と対峙せよ」ハロウィン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0どす黒い過去と対峙せよ

2019年4月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

伝説的スラッシャーホラー『ハロウィン』の正統続編が登場!

クラシックなホラーシリーズではあるが、真っ白で
無表情のマスクを付けた殺人鬼の風貌に見覚えが
あるという方も多いんじゃなかろうか。
まあ『ベイビードライバー』でのハロウィンマスクの
ネタにピンと来なかった方もいるだろうし、2018年
からホラーゲーム『デッド・バイ・デイライト』に
ゲスト的に登場している彼を見て「このマスクの
おっさん誰やねん」と思っていた方もいるだろうが……

マイケル・マイヤーズさんはですね、
ホラー映画界じゃそりゃもう大変な大御所なんすね。
いわゆるスラッシャーホラーというホラージャンル
における第一人者であられせられるぞ。控えよろう。
スラッシャーホラー自体の元祖は『悪夢のいけにえ』('74)
辺りかもだが、郊外や人里離れた地で、不気味な風貌の
殺人鬼が、単身で次々と残虐な殺人を起こす、いわば
“黄金方程式”を確立したのは『ハロウィン』('78)のはず。

マイケル・マイヤーズ御老公の恐怖映画史的立ち位置
の話はここまでにして、本題のレビューに移ります。

...

これまで8本が制作されたシリーズのうち、
今回は1、2作目以降の設定をリセットした内容。
なのでシリーズ未見の方は「40年前のハロウィンの夜、
覆面姿の殺人鬼マイケル・マイヤーズが実妹ローリーを
狙って連続殺人を起こしたが捕まり、精神病棟に収容
された」くらいで考えておけばだいたいOKです。
とはいえ本作で描かれるマイケル・マイヤーズは、
シリーズを通して確立された彼の特長をより
純化したキャラクターになっているとも感じる。

ジェイソン、フレディ、チャッキー、キャンディマン等
過去にも数多のホラーキャラが創造されてきたが、
彼らには怨恨なり快楽なり殺人を犯す動機が存在し、
過剰なまでに残虐で血生臭い殺害方法を取ったりする。

だが、マイケル・マイヤーズの犯行にはそれが無い。
何故殺すのか、何が目的なのかがまるで見えない。
武器を手に入れたり身を隠したりするついでに、
たまたま目についた人間を殺す。それも、
ハンマーや包丁といったごく一般的な
日用品や己の体を使い、ただ無造作に殺す
(あの無機質さは『殺す』ではなく『壊す』に近い)。
中盤、ハロウィンに沸く街の中を平然と練り歩き、
人目に付かない場所を選んで無関係な住民を
次々殺害していく様をワンカット長回しで
とらえたシーンの恐ろしさは出色だ。

彼の行為からは怒りも喜びも感じられない。
劇中では何人かの登場人物がどうにか彼の人間性を
引き出そうと試みるが、彼は全く反応を見せない。
例のマスクを取り戻す事に執着していたり、自分の
血縁者の殺害に執拗にこだわるというパターンは
見られるが、それさえ何故なのか明確に示されない。

マイケルはまさに劇中で呼ばれる通りの“純粋悪”なのだ。
超常的な存在ではない、我々と同じ生身の人間のはず
なのに、まるで悪夢か亡霊が具象化したかのような
掴み所の無さと不死性を常に漂わせている。
彼からは“人間”が感じられない。あのマスクの裏には
どす黒い虚無と、もっとどす黒い殺意しか存在しない。
そこが心底恐ろしい。

...

マイケルの恐怖を描きつつ、この映画は理不尽な暴力
により人生を歪められた女性達のドラマも描いている。

40年前から悪夢の再来に備え、様々なものを犠牲
にしながらも復讐の牙を研ぎ続けてきたローリー、
殺人鬼に怯える母ローリーの為に不遇な子供時代を
過ごし、未だに母と距離を取り続ける娘のカレン、
一方、事件の影響を受けずに育った孫娘アリソンは、
過去に囚われるあまり誰とも疎遠な祖母の身を案じる。

マイケルの犯行は不気味なほど動機が欠如
しているが、ローリーは違う。叫び出すほど
の恐怖を乗り越えてでも、彼女にはマイケル
に立ち向かわねばならない動機がある。
自分の人生を滅茶苦茶にしたどす黒い過去の亡霊と
対峙し、愛する娘達の人生を守ることができるのか?
そして自分自身の人生を取り戻すことができるのか?
ローリーが暗がりから放つあのセリフ、そして
全ての決着が付く瞬間には思わず胸が熱くなった。

あ。あと、震えっぱなしの怯えっぱなしだったカレンの
“あの瞬間”には鳥肌! 母ちゃんたち超かっけェ!

...

シリーズ恒例の主観視点が無かったのはちょっと
残念だが、これは今回マイケルを徹底的に理解し難い
存在として描こうとした上での演出排除かしらん。
あと例の医者の行動は極端すぎやしないかと感じたり
(あの人はつくづくルーミス医師の弟子失格やね)、
殆どの男性キャラの扱いが中途半端な点も気になるが……

前述の長回しシーンや、トイレでの"プレゼント"、
マネキン乱立、偽ジャック・オー・ランタン等々、
ゾッとするような印象的な恐怖シーンはわんさか。
単なるスラッシャーホラーには無い厚みを感じる物語、
マイケル・マイヤーズの恐怖の真髄に迫る演出など、
個人的にはかなり満足な新作でした。4.0判定です。

<2019.04.12鑑賞>

浮遊きびなご