「彼の行為は悪夢ではなく現実である」ちいさな独裁者 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
彼の行為は悪夢ではなく現実である
1945年4月、第二次世界大戦末期のドイツ。
敗戦目前のドイツ軍の若いひとりの兵士(マックス・フーバッヒャー)が、命からがら脱走する。
生き延びた彼がみつけたのは、路傍に置き座られたドイツ軍の車。
後部座席にあった大尉の軍服を見つけた彼は、ヘロルト大尉と身分を詐称し・・・
といったところから始まる物語で、映画において、自分以外の何者かになりすます話は多々あり、概ね佳作・秀作・傑作の部類に入っていたりする。
男性が女性になった『お熱いのがお好き』、その逆『トッツィー』、大統領になっちゃう『デーヴ』など。
なんだけれどこの映画は実話だそうで、「生き延びるために」上等兵が大尉になり、終戦間近の混乱に乗じて、非道ともいえる(というか、非道そのものなのだが)行為に及ぶという話で、まぁ、いっちゃなんだが共感の欠片なんて目覚めない・・・
「・・・」って書いちゃうのだが、これは「・・・」って書かないといけない。
そりゃまぁ、人道的に考えても、収容施設に収監されている脱走兵など、彼の立場と同じ同士を皆殺しにしちゃうなんて言語道断なのだが、生き残るために重ねる嘘によって、そんな言語道断な行為する「当然」「当たり前」「立派な」行為になってしまうことが恐ろしい。
でもでも、恐ろしいけど、「やっちゃうよなぁ・・・」と思わせてしまう状況・・・
それが、戦争。
いや、もう、敵を殺す云々の状況にないわけで。
敵も殺さない奴らを活かして、その上、我々がひもじいので良いのか!!!!!!(って感嘆符、どれだけあれば足りるかわからないぐらいな状況)って、かつての「貴様の身を挺して相手をやっつけてこい、死んで還るな」と、まぁ、ほとんど同じ状況ではありますまいか。
なので、彼のことを笑えないし、畜生にも劣るとも貶せない。
で、そんな、空恐ろしい、えげつない、おぞましい話をハリウッド映画で鍛えた演出で、「これでもか!」とロベルト・シュヴェンケ監督は撮っている。
エンドタイトルのバックには、ヘロルト大尉の特殊部隊が現代に蘇るのだが、これを悪夢と感じられるひとは幸いであるが、これは夢ではなく現(うつつ)に思えて、気が滅入ることしきりでした。