「アイドルだった人だからこそ出来る名演」エリカ38 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
アイドルだった人だからこそ出来る名演
完全に「機が熟した」のを感じた。浅田美代子さんのこと。70年代にアイドルとしてデビューして良くも悪くも男性ファンに「媚びを売る」ことを生業にした後、女優として着実にキャリアを積み上げた。樹木希林さんの主演映画「あん」に短いシーンで登場するのを見た時「女優」として見事に熟しているのを感じた。希林さんが浅田美代子さんのためにこの「エリカ38」を企画し、この難役をぶつけたと言う話は私にとって大いにうなずけるものだった。だって私も「浅田美代子は、世間が思っている浅田美代子じゃないんだよ。浅田美代子はもっとすごい女で、もっとすごい女優なんだよ」とずっとそう思っていたから。しかも演じるのが数年前にニュースで「つなぎ融資の女王」などと呼ばれて話題になった女。60歳で38歳と騙って詐欺をはたらいた女。浅田美代子がこの役をやるなら絶対に観たい!と思った。というか逆に、浅田美代子以外の誰にこの役がやれるだろうか(大竹しのぶさんは別格よ)。
浅田さんの演技はやっぱりすごかった。浅田さんの人生の歴史がこの演技に集約されるかのようにさえ思った。アイドル時代に培った男たちを魅了する魔力と、女優人生で培った演技力と、着実に人生を歩んできた顔と肉体。そこに溢れる女性としての可愛さと怖さ。アイドルを経て結婚と離婚を経て天然キャラを経て女優として開花し今なお可愛い浅田美代子でなければ表せないものが、この映画とこの役には確かにあったなと思う。
その一方で惜しいのは映画自体の内容の方で、エリカが犯罪に手を染めていくその過程と言う意味でも、その間のエリカの心理と言う意味でも、もしくは犯行の裏に隠されたエリカの暗部や深部と言う意味でも、いずれもこの映画から読み切ることは難しく、いずれも表現しきれていないような消化不良を感じた。エリカという女性の魅力と狂気も、物語を通してというよりは女優・浅田美代子の気迫を通してしか感じようがないようなところが否めなかった。
結果見終わって一番印象に残るのは、エンドロールで流れる実際の被害者の証言インタビューになってしまう。映画そのものの言い足りなさを、その証言インタビューが補足するような形になってしまった。おかげで最後にガツンを力強いパンチを受けるようなインパクトは残ったが、その分作品自体の力の弱さが克明にされてしまったかな?という気がした。
(舞台挨拶で生でお見かけした浅田美代子さんは、登場した瞬間に光を放って見えたほどに、美しく文字通り輝いていらっしゃいました)