「もうひとつの視点、痛みについて」Girl ガール ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
もうひとつの視点、痛みについて
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悲しみも、辛さも、喜びもなにもかも押し込めてしまったようなララの表情と、バレエにひたむきに打ち込む姿が、独特の緊張感となって、想像だにしなかったエンディングにつながっていく。
ただ、最後の場面、メトロの地下通路だろうか、歩くララの表情は、どこか吹っ切れたようで清々しい。
ララは、なぜ、あれほどバレエに打ち込んだのだろうか。
きっと心と身体が一致しない不安を、必死で振り払おうとしていたのではないか。
父親や、バレエ学校のコーチ、医者やカウンセラー、周囲の人々が、支えようとすればするほど、ララの心の痛みは募ってしまう。
口では「大丈夫」と言っても、そんなことはなかった。
父親の「自分も時間をかけて男になったんだ」という言葉も、ララの焦燥感を軽くは出来ない。
男性を求めてしまったのも、女性であることを自身で確認したかったからだろうか。
僕たちは、こうしたトランスジェンダーの物語を、恋愛の葛藤といった演出のなかで観ることが多かったように思うが、これほど、心と身体の不一致の痛みにフォーカスしたストーリーは初めてだ。
ナチュラル・ウーマンは、様々な偏見と相対しながら、それを乗り越えて生きようとするトランスジェンダーの物語で、他とは異なる視点だったが、この作品は、更に別の視点でトランスジェンダーを見つめた秀作だ。
多様性という観点で外形的に語られることや、恋愛を介したストーリーで作品化されることが多いテーマだが、こうした刺すような心の痛みを抱える若者がいるのだということを、自分の心に留め置きたいと思った。
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