「冷たい熱帯魚、銭湯版?」メランコリック レプリカントさんの映画レビュー(感想・評価)
冷たい熱帯魚、銭湯版?
あるいは「OUT」 みたいな作品かと思いきや、とにかく全編弛い展開で、まず主人公に共感できるところが全く無い。
バイト先の銭湯で死体の処理が行われていた事実を目の当たりにした主人公だが、最初こそ恐怖におののくものの、清掃を任され、思いの外多額のボーナスを貰い、それに気を良くして女の子を高級レストランにデートに誘う。
自分が犯罪の証拠隠滅に加担した事実を認識し、警察に訴えるべきか、あるいは誰かに相談すべきか、そういった通常人のもつ葛藤は全く描かれず、ともすれば何の抵抗もなく次の仕事はいつですかと物欲しそうにする主人公。
自分だけが特別の秘密の仕事を与えられたことに充実感さえ感じられる。それは同僚の松本に仕事をとられたことで嫉妬心むき出しにするところでも伺える。
そもそもストーリーにリアリティが感じられない本作。主人公の実家での食卓シーンがとってつけたようなものだったり、ヤクザの田中が全くヤクザに見えない、銃での襲撃シーンは銃の構え方が安物のハリウッド映画並みであったり、あげくのはてに一般人の主人公が簡単に二人の人間を銃で殺害したり、撃たれた松本が家庭の救急箱レベルの治療で治癒しその晩、平気で食事をとってしまう等々。
だが、本作はそういったリアリティを求めてはいけないのだろう。そう、本作はファンタジー映画として見るのが正解なんだろう。
高学歴ながらも卒業後未だに社会に浸透できずにくすぶっていた(メランコリックな)主人公がはじめて社会に居場所をみいだしたのがこの死体処理に使われていた銭湯なのである。一流企業でもなく、霞ヶ関でもない、この銭湯こそが彼の居場所だったのである。
一通りの教育期間を経て、本来なら社会の一員として羽ばたくはずが、そうはなってない人間にとって合法、非合法関係なく自分が必要とされる世界ならなんの問題もないのだろう。彼女作って、実家暮らしを平気で続けていることを松本になじられるまでは。この点、一般人の主人公より殺し屋の松本の方が普通の感覚なのが可笑しい。
ツボにはまれば楽しめる作品とは思うが、個人的には可もなく不可もなくといった感じでした。