劇場公開日 2019年8月3日

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「ゆるさとバイオレンスのバランス」メランコリック しずるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ゆるさとバイオレンスのバランス

2019年9月16日
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笑える

生まれたままの姿で水に身を沈める。風呂という場所と『死』は、観念的にとても近い場所にあるように思う。
夜の銭湯で、殺人と死体処理が行われている。一見奇抜に思えるシチュエーションが、観念的にも効率的にもバッチリ嵌まっていて、そのアイデアだけで作品の土台として十分な魅力がある。
メッセージ性があるようでないようなフワフワした雰囲気、登場人物達の明確なベクトルなき生活、描かれないバックグラウンド、思考停止で転回する事態、正体のはっきりしない憂鬱と刹那の満足感などが、望洋としていながら妙にリアルで、いかにも現代的だった。
鑑賞した50席程度のミニシアターの規模も、狭い世界に終始する物語のパーソナルさにマッチしていた。
アイデアと、空気感と、場所が揃って、醸し出される独特の雰囲気を、十二分に堪能できた。

凄く小規模で、凄くゆるーいフイルムノワールといった感じ。殺人シーンも余りエグい描かれ方はしないので、バイオレンス苦手な私でも余り嫌悪感なく見られた。
銭湯の日常と殺人の非日常のギャップ、それにさしたる抵抗なく馴染んでいく和彦、仕事として疑問なく淡々と励む東や松本。特に和彦の実家のシーンが、テンプレなサザエさんかよ!というようなほんわか夫婦で、仕舞いにはあの状況でその反応!?というちぐはぐさ。可笑しさを通り越してちょっと怖いわ!このむず痒いような気持ち悪いようなシュールさもいい感じ。
この、ダークでシュールながら非現実的で呑気な空気感を、意図的に作り上げたのか、単にどっち付かずになったのかで、評価や好みが随分変わってくる気がする。

見るからにインディーズという、演技や画面の粗さ、舞台のコンパクトさ。完成度は高いとは言えないが、そこは作品の性質上、少し差し引いて見てもいいだろう。
論理的に説明的に、筋立てて話を追おうとするのはお勧めしない。意義や整合性を求めてしまうと、あり得ないとか、説明がなされないとか、結局何が言いたいのかとか、気になる所が沢山出てきてしまう。
風呂でぼうっと、妄想や回想や考え事を巡らしながら、気持ちよさとどことない不安に包まれているような、奇妙な肌触りを楽しみたい。

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しずる