劇場公開日 2019年8月3日

  • 予告編を見る

「設定と筋立ては秀逸」メランコリック andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5設定と筋立ては秀逸

2019年8月5日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

“melancholic”=憂うつな、というタイトルの映画は主人公の倦怠で始まる。倦怠、緩い家族(これが最後に効いてくるとか誰が思うのか)。そして風呂の湯を抜かれた日に行った銭湯で高校の同級生に再会したことで話は始まる。
このヒロイン像がなかなかに都合が良すぎてちょっとどうなのとは思ったが、銭湯が殺しの始末の場、という設定は秀逸。そして非日常で自分が使えない存在であることに嫉妬を抱く主人公がいちばん面白いところだ。面白いシーン自体はいくつもあるのだけれど、心情描写としてリアルにいちばんくるのはここだった。
詰まるところ、主人公が東大卒のフリーターであるという設定はここで活きるわけだ。明らかに人よりできると思いつつできない。しかも自身は意識していない。殺し屋への関与は即ち主人公の「承認欲求の充足」に一役買うわけだ。
しかし、この映画において人の死は本当に空虚だ。人の死は誰も成長させない(殺し屋の松本君が妙に格好良くなっていくだけである)、主人公は余りにそれを当たり前の日常の中に受け容れており、疑問は持っても葛藤がないので、観ているこっちが葛藤した。そういう意味で主人公には心がない。
ラストにかけ、そのない心が急激に噴出した結果の結末につながる訳だけれど、ラストに穏やかさを感じないのは私だけだろうか。モノローグが不穏だった。個人的はモノローグ以外の映像表現であの表現をやって欲しかった、と思う。それまで一切のモノローグを持たない映画なのだから、それを貫いた方が個人的な美学としては美しかったし、より”melancholic”だったと思う。
筋立てと発想はものすごくいいのに、人物描写が若干薄いというのが悩ましかった。主人公はもっと徹底して突き抜けさせ、ヒロインに一癖が欲しかったなあ...。ご両親があんなに突き抜けてるんだからさあ...(あれも唐突だなと思ったが。普通の次元を超えている)。

andhyphen