ホワイト・クロウ 伝説のダンサーのレビュー・感想・評価
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自らの信じた道を貫くダンサーの姿に、監督レイフ・ファインズの信念が重なる
俳優としておなじみのレイフ・ファインズが、その一方で監督業へ進出して久しい。これまでシェイクスピア物の現代版や文豪ディケンズの知られざる逸話などを映画化した彼が新たに挑むのは、60年代にソ連から亡命した若きバレエダンサーの物語だ。『愛を読むひと』やTV映画、舞台作などでも組んだことのある脚本家デヴィッド・ヘアに脚色を託した末、そこには「表現することへの欲求」や「個人の自由」を追求した主人公の飛翔ともいうべき瞬間が刻まれることとなった。 有名俳優を使わず、バレエの本質をごまかすことなく、さらにセリフには英語とロシア語、フランス語が混ざり合う。通常の商業映画ならば誰もが避けたがるこれらの道をあえて辿り、この物語や世界観を真摯に描きつくそうとする姿勢にファインズの心意気が伝わって来る。自らの信じた価値を貫こうとする主人公の姿には、少なからずファインズ自身の生き様が投影されているのかもしれない。
国家のために特攻隊の肉弾にされる芸術家たち
冒頭、 パリに到着したヌレエフ。 見つめる先は ルーブル美術館のジェリコーの大油彩画 「メデューズ号の筏」だ。 これから始まる「命を賭したヌレエフの行く手」を暗示する絵だ。 台詞の少ないこの作品を、破綻させずに「バレエ映画」として、実話ベースのドラマとして、ここまで格調高く仕上げた脚本家、演出家たち。そして有能なアドバイザーも大勢いたはずだ。もちろん出演する有名無名のダンサーたちの輝きは言わずもがな。 統括する映画監督はレイフ・ファインズ。 プロフィールを調べれば納得だ。彼らの実力は大したものではないか。 ルドルフ・ヌレエフの半生。 はみ出し者=ホワイトクローな彼、ヌレエフの、「誰とも上手くやっていけない非常にまずい性格」が、 ―彼の幼少期にも、 ―ロシアでのバレエ生活でも、 ―彼を支えようとしてくれる人々への対応でも、そして ―彼を監視し、政治思想犯として連れ戻そうとする官憲に対しても、 ヌレエフは「困ったことに」丁寧な対応が出来ない。 けれど、 いくらかの問題があるから孤高の存在になれるのであり、 たしかに問題があるからアーティストはアーティストたる所以なのだろう。 ゆえに、 国境も、決まり事も、恋人の想いも踏みにじって、ただ彼は自分のためだけに舞う男だったのだ。 ・ヌレエフの伝記として、また、 ・そんなに彼に惚れ込み、攪乱させられた多国籍の人たちの物語として、とても興味深く観させてもらった。 ・・・・・・・・・・・・・ 僕は、 「EUがノーベル平和賞を受賞した時」に、 この世界がついに、満身創痍の泥沼から、 政治と文化と民族と歴史を超越して、とうとう我々人類が難波した船から「救難の筏」で脱出し始めたのだ!と思い、感動で胸が一杯になったものだ。 本作も、フルシチョフ時代のソ連が、一旦崩壊し、その後の、つかの間の冷戦の緩和を受けて、ロシア・フランス・イギリスの三国が協力して作り上げた作品。 サウンドトラックの管弦楽も、ロンドンとベオグラードが分担している。 自国の過去を省み、かつての自国のイデオロギーを否定し得る、「協調」。これが新しいロシアのキーワードだ。 それにしても 体制の波にもまれながら、じつにたくさんの芸術家たちがヨーロッパへ、そしてアメリカへと渡ったものだ。 追手の追跡を振り切って逃げたアーティストたちは、歴史に名を残すだろう。しかし亡命に成功した彼らは氷山のほんの一角なのだ。 その美談と名声の陰に埋もれて、ついに逃げ切れなかった者たち、そして やはり亡命を選ばなかった者たち ( 選べなかった者たち) が、どれほどまでに多く、壁の向こう側にいたかと思うと、胸が痛まないではおれない。 ・ ・ チリ人の裕福なパトロン =クララ (アデル・エグザルホプロス)や、先生の妻もとても良い味を出していて、ドラマを熱く息づかせている。 そして劇中でヌレエフを支え続けたパリ在住のダンサー役はウクライナ出身のセルゲイ・ポルーニンだった。 その後のロシアは、あろうことか、ウクライナ戦争を引き起こし、ペレストロイカの喜びはいずこ・・。ロシアは過去の恐怖政治に逆戻りだ。 プーチン支持を表明した僕の大好きな指揮者ワレリー・ゲルギエフが、西側からボイコットされて演奏旅行に出られなくなってしまった事も、本当に悲しい結末。 ヌレエフがふるさとに残してきたお母さんの面影が、幾度も白黒映像で去来します。 ここ信州には、徴兵によって家族と引き裂かれた画学生たちの「無言館」もあるのです。 アーティストも、アスリートも、そして誰ひとりも、国の威信のための肉弾になってはいけない。 抵抗しなければいけない。 逃げなければいけない。 ·
天才の孤独
持て囃されるのに、どこかクールで辛そう。 ダンスに物語を吹き込む事のできる人は、技術に専念注意のダンサーとは思いもパッションもレベチなのですね。 満たされているはずなのに、僻むのは切ないけれど、だからこそ、ダンスに打ち込める。 素晴らしいバレエでした。 お見事です。
バレエ映画あるある
はい。 もう、バレエ映画あるあるで 兎に角主演ダンサー役が踊れ無さ過ぎる。 カメラワークで誤魔化そうと頑張っているが、そんな小手先で誤魔化せるはずも無く。 自分が演ずる予定ではなかったが(ワガノワ校長に?)説得されてプーシキンを演ったというレイフ・ファインズが素晴らしい。 ヌレエフ 、バリシニコフを育てた名教師でありながら薄幸だったプーシキンその人のようだった。 プーシキンの妻役も亡命の際に働く令嬢役も良い。ってか、ヌレエフ 役以外みなさん好演。 ポルーニンは無駄遣い。
メデューズ号の筏が見たいな
伝記映画は虚飾があるので、あまり好きになれないのですが、それを抜きにして素晴らしい映画でした。3つの時間軸が同時に流れるのですが、キャストを利用して、理解を容易にしてくれていると思いました。イデオロギー抜きにして良かったと思います。 バレーの映画なのに、メデューズ号の筏が見たくなりました。ルーブル美術館へ行きたいですね。 シベリア鉄道よりもヨーロッパを語るならオリエント急行なのかなぁ?
自分ごとに
日本は当時のソビエト連邦の様な国ではありませんが、閉塞感があって息苦しく感じている人も少なくないと思います。ダンサーでなくても、天才でなくても、新天地を目指す全ての人の背中をそっと押してくれる作品かと思います。
野性味溢れるダンサー
ルドルフ・ヌレエフってこんなダンサーだったんだと改めて知る事が出来る映画。オレグ・イベンコが有りのままの野性味溢れるルドルフ・ヌレエフを体現している。この映画の監督でもある レイフ・ファインズがルドルフの指導教師役で 出ているが、抑えつつも内面のにじみ出る 演技をしていて良い。 後半の展開がスリリングだった。
タイトルなし
1961年 23才の天才ダンサー 初の海外バレエ公演をパリで。 ソ連から「西側」へ亡命した伝説のダンサー #ルドルフヌレエフ の半生を映画化 . #レイフファインズ は ヌレエフの映画化を考え20年以上ーー。 「これだけ長い時間を要した。ひとつ強力な原動力を挙げるなら、ルドルフ・ヌレエフの精神。『個』よりも『集団』に重きが置かれていた当時のソ連で、ヌレエフは『個』としての夢を追求する。アーティストとして自己実現する姿が、私の心をとらえ続けたのだと思う」 そう語る。 演技経験のないプロのダンサーを起用 ウクライナ出身でカザン・タタール劇場で プリンシパルを務めるオレグ・イヴェンコ 実力は折り紙付き 躍りそして表情も本人と錯覚させるそう . ヌレエフは傲慢でもあるが パリの美術館で絵画や彫刻を目にし 美を追求する姿勢・その感性に魅せられ 踊るシーンはすばらしい 社会主義国家からの亡命 緊迫し手に汗握ります . . 以前鑑賞した 🎥「ホワイトナイツ 白夜」('85アメリカ) こちらは 1974年にソ連からアメリカに亡命 ミハエル・バリシニコフについて 描かれています
二本立て二本目。今日のテーマは社会主義、実話。 主人公ヌレエフ、ヤ...
二本立て二本目。今日のテーマは社会主義、実話。 主人公ヌレエフ、ヤバい奴。劇中でも世界一わがままと言われていたがまさに。師事した先生もまたヤバい。ソ連って浮気公認?先生の嫁、私の前にも現れて欲しい(笑) ラストの亡命シーンは手に汗握ります。クララ・サンって何者?セレブ?(笑) それにしても今のロシアってどんな感じなんだろう。それこそロシア映画とか、面白い作品を見ていろいろ知りたい。
天才がいなくならなくて良かった
バレエを見るための映画かと思ったら、ラストの亡命シーンにドキドキして、まるでサスペンスを見ているようでした。 人間としてはどうなの?と思うところは多々あったけど、それを補えるほどの才能だったんだろうな。 今回もフランス人の芯の強さをがっちり見せてもらいました。
ふつうの自由
亡命するって、何か強い主義主張があってするもんなのかなって思ってました。もっと広い世界を見たい、知りたいってことが制約される国で生まれるって辛いなって感じました。あたり前に自由がある国にいるんだから、もっと色んなことしないともったいんだなと考えるきっかけになりました。
美への飽くなき探求なのか?
ルドルフ・ヌレエフは二度ほど舞台を観たことがある。カリスマ的魅力がある人だった。汗だくになって踊っていた姿が忘れられない。そんな彼の若き日の姿に感慨を覚えた。亡命していたことは知っていたが、詳しいことは知らなかった。列車の中で生を受けたこと、貧しいこと、始めたのが遅かったこと。それらのハンデをものともせず、プライドを持って走り続けたんだなぁと思った。フランスには美術館だけでなく、何よりも自由があった。でも亡命したら、故郷には二度と帰れないかもしれない。そんな中で彼の下した結論は、やはり間違っていなかったと思う。レイフ・ファインズがなぜこの映画を撮ったのか? ヌレエフの心情がよく理解できたからなのかもしれない。静かだが、胸に迫ってくる映画だった。
おもちゃの電車に見る母への思い
自由な時代に生きていることのありがたさを噛みしめる作品だった 冷戦時代に活躍したソ連のバレエダンサー ヌレエフの実話の映画化 監督は、俳優のレイフ・ファインズ 前半は、田舎町の貧しい農家に生まれたヌレエフが生きていくために、さらなる高みを目指してバレエダンサーとして生きていく姿が描かれる しかし、トップダンサーになると、いろいろな欲望が生まれてくる ヌレエフは、西側の文化も積極的に学び、将来のために英語も学ぶようになる しかし、当時のソ連でそんなヌレエフの考え方が許されるはずがない ヌレエフは、パリで公演するバレエ団のメンバーに選ばれるが、常に監視がつくような状態だった バレエダンサーとして、さらに羽ばたきたいと思い、様々な芸術に関心を示していたヌレエフだったが、彼に許された自由は限られていた それはまるで、鳥かごの中の鳥のようで、彼を見ていると 「もっと自由にさせてあげたい」という気持ちでいっぱいになった そして、後半、彼は生き抜くための選択をするのだが、そこから先はスリリングなサスペンスのようだった そんな過酷で激動の人生を送ったヌレエフだったが、彼の家族への思いがとても印象的で、心に残っている その思いを象徴しているのが「おもちゃの電車」だ 走っている電車の中で生まれた彼は、どんな時も、大人になっても、おもちゃの電車を持ち歩いていた それは、彼にとっての「家族の思い出」なのではと思った 幼い頃にバレエ団に入れられた彼には、家族写真もないけれど、電車を見ては田舎町に暮らす母のことを思い出していたのではないかと思う そんな彼が、パリで高級なおもちゃの電車を求めていたのは、田舎町で貧しい暮らしをしている母に贅沢をさせてあげたいと思っていたからではないかと思う しかし、そんな彼の思いは叶わない。 彼の母が亡くなってから10年足らずで、ヌレエフ本人も亡くなってしまったところに、そんな彼の母への思いが見えるような気がした その時のヌレエフの人生を思えば、今、自由に生きられることが、どれだけありがたいことなのか そして国の思想が、個人の人生を台無しにすることがあってはいけないなと思った
ダンサーはつくづく美しい生き物
ポルーニンさんはもちろん、主役の方(トップダンサーなのだと他の方のレビューで把握)も、みんなみーんな美しい❤️画面に映るバレエダンサー率高く、それだけで目の保養でございました。 期待していたダンスシーンが少なかったのは、よくある”主人公の葛藤をダンスで表現lみたいな、ベタな演出をしない監督の美学か? わかるけど、スーパーダンサーを使ってるのだから、もう少し見せてくれてもいいのにね。 亡命シーンも意外と地味目。キレイで丁寧につくってるし、センスも悪くないけれど、映画としては少し食い足りないと思いかも。
映像・音楽・ストーリー。全て素晴らしい作品です。
尊大・傲慢・反逆児。 ヌレエフはまさにこの通りのダンサー。でも、1本筋が通った男。 ヌレエフのバレエの先生が言う。「今は皆、技術ばかりに気を取られ物語を作ろうとしない」。私の胸に響いた。実は私はバレエ要素が必須のフィギュアスケート観戦が大好きだった。でも最近は観なくなった。興味が薄れた理由がまさにこれだった。映像・音楽…とても美しい作品でした。 Going my way.
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