「オタクを描いた作品なのにオタクをバカにしてる」ヲタクに恋は難しい といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
オタクを描いた作品なのにオタクをバカにしてる
【2021/5/5追記】
Amazonプライムビデオにて最後まで鑑賞しましたが評価は変わりませんでしたので、レビューはそのまま残します。
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地上波で放送されたので鑑賞いたしました。
先に断っておきますが、2月13日に宮城県沖で発生した地震によって番組が地震特番に切り替わってしまったので、ラストシーンは観れていません。最後まで観ないでレビューすることに対しては抵抗がありますが、本作はラストに衝撃の展開が待っているタイプの映画ではありませんし、ラストシーンに至るまで色々物申したいことがあったので、例外として最後まで観ていない状態ですがレビューいたします。ご了承お願いします。
結論としては、本当に酷い作品でした。ミュージカル映画としてもクオリティは低いですし、コメディ映画としても笑えません。随所に散りばめられるオタクネタも、時代遅れのものや的外れなものが多く、「オタクってこんな感じでしょ。」っていう作り手のステレオタイプな偏見が垣間見えます。こんなに観ていて苦痛に感じる映画ってありませんよ。何も考えずテキトーに作った映画なんだということが観ていて伝わってきました。
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腐女子である桃瀬成海(高畑充希)は、オタクであることを彼氏にバレて振られてしまったことがトラウマとなっていた。転職をきっかけに自分のオタク趣味を隠そうとしていたが、転職先で成海の幼馴染であり自身も重度のゲームオタクである二藤宏嵩(山崎賢人)と偶然再会する。成海の過去のトラウマを知った宏嵩は、「自分ならオタク同士だから、気を遣わずに付き合えるのでは」という提案をし、二人はめでたく付き合うことになったのだか…。
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アニメ好きの腐女子である成海と重度のゲームオタクである宏嵩。同じ「オタク」というカテゴリーには属するものの、そこには明確な違いがあります。「オタク」と十把一絡げに括られてしまいがちですが、それぞれに個性があるし異文化なんです。「ヲタクに恋は難しい」は、そんな相手の個性を理解し許容していく恋愛の物語であると私は思っていました。
しかしながら、この映画では原作で丁寧に描かれていた「オタクの個性」というものを一切排除し、アニメオタクも声優オタクもゲームオタクもアイドルオタクもコスプレオタクも全部まとめて「オタク」として描いているんですよね。そこが本当に観ていてキツかった。「オタクってこういうの好きなんでしょ」って感じのオタク用語の連発とか、ニコニコ動画風のコメントが流れていく演出とか。内田真礼のライブシーンのオタ芸とか。「こういうの面白いでしょ?」って感じで作られているのが分かります。終始「オタクじゃない人がイメージするオタク像」が出てくるのはキツかったです。
まあ、オタク映画としては赤点だとしてもミュージカルとして楽しめれば良いんです。
ただ、この作品は残念ながらミュージカル映画としても赤点なんですよね。
一般的にミュージカル映画内でのミュージカルは登場人物の心情吐露であったり物語を動かすきっかけになることが多く、ミュージカル中も物語が進行します。だからこそ、長いミュージカルシーンがあっても飽きることなく観ることができるのです。しかしこの作品では、ミュージカルシーン中は物語が一切進行しません。「ミュージカルシーン要らない」っていうレビューが多いのも納得です。極論、ミュージカルシーンを全カットしてもストーリーが繋がるような構成になっているんです。取ってつけたようなシーン。退屈ですし不要です。
そもそも何故本作をミュージカル映画にしたかと言えば、「アニソンを歌って踊るのが面白いと思った」という福田監督のアイディアがあったかららしいんですが、結局権利の関係で既存のアニソンが使用できなかったせいでオリジナル曲でミュージカルしているんです。既存のアニソンが使用できなくなった時点で福田監督の当初の構想は崩れているんですから、その時点でミュージカル映画は止めるべきでした。「アニソンを歌わせたい」というミュージカル映画にするための理由が消失しているのに、「ミュージカル映画を作る」ということに固執してしまった故の弊害です。
しかも作中で、バーでミュージカルを始めた花子とマスターに対して宏嵩が「歌とかいいですから!」と遮るシーンがありましたが、これは本当に最悪です。ミュージカル映画って、「本当は歌ったり踊ったりはしてないよ」っていう設定の映画じゃないですか。渋谷の109前でコスプレして踊るシーンもビックサイト前でコスプレして踊るシーンも、あれはそういう演出であって実際に歌って踊っているわけじゃないっていう「設定」じゃないですか。でも、この宏嵩の台詞のせいで「じゃああれって実際に歌って踊ってたの?」っていう疑問が湧いてきて、ミュージカル映画としての暗黙の了解が崩れてしまうんですよ。ミュージカル映画として、あのセリフは最悪だったと思います。
オタク映画としてもダメ、ミュージカル映画としてもダメでしたが、じゃあ福田監督の得意とする「コメディ映画」としてはどうだったのか。正直これもあまりにお粗末なものでした。
福田雄一監督の独特なコメディ演出を「福田節」とか言ったりするらしいですけど、本当に内輪ネタみたいなお笑いネタばっかり。佐藤二郎やムロツヨシのアドリブとか変な喋り方をするシーンがありましたが、私は全く笑えませんでした。コメディは好みがあるので、これを面白いと思う人がいても良いとは思いますが、福田監督の過去作やバラエティ番組への出演によって、佐藤二郎やムロツヨシは「アドリブとか変な喋り方をする」というイメージが定着してしまっていますので、ぶっちゃけこの二人の演技では全く面白さを感じないんですよ。中盤に斎藤工演じる樺倉が酒に酔って号泣するシーンがあって、そこは面白かったんですよ。何故ならイケメン俳優の斎藤工が、全力でボロ泣きしているから面白いんです。年末にテレビでやってる「絶対に笑ってはいけない24時」だって、バラエティ番組にほとんど出ない大物芸能人が全力でギャグをやるから面白いんですよ。「まさかこの人がこんなことするなんて」っていう意外性があるから笑えるのであって、今更佐藤二郎やムロツヨシが変な喋り方したって面白くないです。
オタク映画としてもダメ。
ミュージカル映画としてもダメ。
コメディ映画としてもダメ。
久々に褒められるところが見当たらない映画に出会いました。ある意味感動です。