「粗野と優雅の完璧なハーモニー」グリーンブック つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
粗野と優雅の完璧なハーモニー
一言で言うとタイトルの通り、二人が少しずつ調和していく旅と友情の物語だ。
二人を演じたヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリが最高で、「粗野なトニーと優雅なドン」のコントラストから繰り出されるスットコドッコイなコミカル・ロードムービー。
で、非常に満足したわけだけど、なんか変に黒人差別の描き方に苦言を呈してるレビューを見かけて逆に驚いた。
もちろん、ベースとして人種差別が描かれるわけだけど、「可哀想な黒人を白人が助ける話」みたいな見方しか出来ないのは勿体ないとしか言いようがない。
という訳で長くなっちゃうけど解説めいた事を書く。
作中でドン・シャーリーが抱える思いは複雑だ。ドンは小さな頃からピアノに親しみ、才能を開花させて一流のピアニストになった。
彼が住むNYはリベラルの最先端で、街には黒人以外にもあらゆる人種が往き来し、アジア系の姿も目立つ。
カーネギー・ホールの上でインド系のサーバントにかしずかれ、王のような椅子に座るドンは物腰柔らかく優雅で、知的で、「ザ・上流階級」。
そんな彼が、南部へコンサートツアーに出るという。リベラルで清潔で安全なNYから、差別の色濃く残る南部へ。黒人だ、という以外に彼を定義する尺度を持たない土地へ。
それは一体何故なのか?それこそがドン・シャーリーの抱える複雑な思いに直結する。
一方、橋を渡ったブルックリンに住むトニーはイタリア系移民で、都心郊外の治安の悪い地域出身らしく、腕力と小狡さを活かしたその日暮らし。嘘ではないが真っ当でもない巧みな知恵で金を稼ぐ。ボクシングやってないロッキー、喋りが達者なロッキーである。
ガッツォさんみたいな、イタリア系を仕切ってるオッサンも勿論いる。なんてことを考えてたら、ホットドッグ早食い競争の相手の名前が「ポーリー」でちょっと笑ってしまった。
イタリア人街の結束は強く、何かあるとすぐ集まる。その中心はトニーだ。もちろんお昼はミートボールスパゲティ。
ブルックリンで生まれ、ブルックリンで育ち、「イタ公」と呼ばれ、気に入らなければ殴り、同じ境遇の仲間とつるむ。きっと息子たちも自分と同じように生きていく。その事に何の疑問も違和感もない。それがトニー・リップだ。
そんなちぐはぐで対照的なな二人が、「旅」という密接な時間を共にすることで生まれていくお互いへの理解が面白いのだ。
「黒人」も「イタ公」も差別を受ける側だが、二人は全く違う。ドンは知的で冷静な振る舞いを通して、一人の真っ当な人間として扱われることを期待し、トニーはある程度の事には目をつぶりつつ、限界を超えれば暴力で解決する。
「黒人の好物はフライドチキン」に抵抗するドン。「イタ公はミートボールスパゲティ。その通りだ」と開き直るトニー。
「旅」は予期しない一面も覗かせる。危ないから一人で出歩くな、とトニーに言われていたドンが一人で向かった先は、今風に言うならハッテン場だ。
見た目は黒人、だから白人世界には溶け込みきれず、中身はリベラルのインテリ、だから黒人世界では居場所がないと感じ、性的マイノリティ、だから「私は男だ」という帰属さえ脆い(当時の感覚ですよ。あくまでも)。兄と疎遠になった真の原因もその辺りにありそうだ。
自分は一体何者なのかと問うドン。自分はこういう人間だと説明できるトニー。
魂の安らげる国を目指して、この国を変えようとしている大統領に望みを託して、自分もその変化に貢献するために、あえて南部へと旅立つ。勇気だけが世界を変えられる、それがドンの旅の理由だ。
心を映し出したような土砂降りの雨の中、理性の下に隠してきたドンの叫びは、ドンにとってあまりにカッコ悪く、本当だったら誰にも見せたくない姿だっただろう。だが、「旅」はそれを許さない。
一夜明け、不用意な外出を謝るドンにトニーがかけた一言がシンプルなだけに心に響く。
「人間は複雑だからな」
多分この一言が、二人の絆を更に強める切っ掛けになったのだと思う。「ありのままで良いよ」という態度が、弱っているときどんなに有り難いか。
クリスマス前に家に戻るべく、雪道を走る車を警官に停められる。この旅二度目の出来事で、トニーも辟易している。
この警官が優しかったことをご都合主義だ、と思う?これはクリスマスの奇跡。パワーストーンの力と合わさって、二人に舞い降りた祝福なのだ。
最後に。トニーの家族の前に姿を現したドンは、世界を変える為ではなく自分の為に、勇気を出して行動した。「淋しいと思った時は自分から行動しなくちゃ」というトニーの言葉を信じて。
そしてその勇気は、旅の間送り続けた「交響曲とブリキ太鼓のハーモニー」を心待ちにしてくれていた人の感謝の言葉、という最高のクリスマスのプレゼントを与えてくれたのである。
