劇場公開日 2019年3月1日

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「トニーがひとり助さん格さん。木枯らしのエチュードが圧巻。」グリーンブック 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 トニーがひとり助さん格さん。木枯らしのエチュードが圧巻。

2025年6月4日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

1962年、
白人の運転手と黒人のピアニストが
黒人差別の最も激しいディープ・サウスのツアーに赴く、
ってだけで、
起こる出来事はだいたい想像がつく。
何度も起こってきたことだし、
何度も描かれていることだから。

あとは、
それぞれがどういう人物か、ということ。
この映画が面白いのは、ここ。

ビゴ・モーテンセン演ずるトニーはイタリア系。
米国社会で「ああ、イタリア系ね」と言われる立場。
マフィアとのつながりも、トニーにはあるっぽい。

マハーシャラ・アリ演ずるドクは、
カーネギー・ホールの上階に住む「成功者」。
北部あるいは東部では、それなりの待遇を受けている。
そして黒人社会とのつながりは皆無。
だが南部へ行けば「黒人」としてしか扱われない。

本当はクラシックのピアノ奏者として、ショパンを弾きたいんだけれど、
レコード会社から「黒人にクラシックは無理」と言われ、
仕方なくポピュラー音楽を演奏している。
それでも彼は矜持を保っている。
だが彼には更なる秘密が……

という設定が斬新。
ってか元が事実だってんだから、斬新もへったくれもないんだけど。

それに加えて、
トニーの奥さんドロレス(リンダ・カーデリニ)が素敵で、
実はこのストーリー、陰の中心軸は彼女だったんじゃないか、
と思えるくらいの存在感。
とくに全編最後の台詞が、シビレル。

圧巻は、
ドクが南部の黒人ばかりのジャズ・バーで
ショパンの「木枯らしのエチュード(練習曲作品25-11)」を演奏するところ。
そして、喝采。

それまで
白人たちを前にした「たてまえ」のコンサートで
意に染まぬ曲を演奏せざるを得ず、
作り笑いしかしていなかったドクが、
ここで初めて、心の底から笑うんである。

泣けた(T-T)

笑える場面もいっぱい。

おいしそうに食べる場面もいっぱい。
とくにパスタがおいしそう。

でもフライド・チキンは、
ビミョーな立ち位置で登場する。

トニーは
最初は世間並みの偏見を持ってるんだけど
実はとことんいい奴でしかも可愛いし、
ドクも可愛いし、
ドロレスも可愛いし、
トニーとドロレスの親戚たちも可愛いし、

南部のクソ野郎どもはとことんクソだけど
トニーが(ときに勇み足もあるけど)
「ひとり助さん格さん」みたいにやっつけてくれるし、

なんといっても
トニーからドロレスへの手紙が白眉だし、

想定可能な範囲でも
こんだけ面白くできるんだな~
っていうくらい面白かった!

島田庵
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