「ドライビング・最強のふたり」グリーンブック 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ドライビング・最強のふたり
祝!本年度アカデミー賞作品賞受賞!
…でなくとも見たいと思っていた。
『ヘルプ』『ドリーム』など、人種問題をユーモアとハートフルで包んだ作品が大好きだから。
当初地元の映画館では上映の予定は無かったが、アカデミー賞を受賞した事で急遽上映が決定、先日見た『ROMA ローマ』と共にこの春見れて嬉しい一本。
とにかくドストレートに、実話ベースながら王道とでも言うべきストーリーと、主演二人の好演が心地よい。
トニー・“リップ”・バレロンガ。
イタリア系の白人。
ゴミ収集、大食い競争、クラブやギャングの用心棒…稼ぎの為なら何でもやる。
妻子あり。
家族思いで陽気な大食漢だが、ガサツで時に荒々しく、口も悪い。手が出る事もしばしば…いや、しょっちゅう。
食って、飲んで、タバコを吹かして、びっくりのブヨブヨ体型ながら、ヴィゴ・モーテンセンにまた一つ、名演と代表作が。
ある日トニーに、運転手の仕事が舞い込む。
その雇い主が、ドクター・ドン・シャーリー。
ドクターと言っても、医者ではない。天才的な黒人ピアニスト。
その演奏は、ピアノとは無縁のトニーすら魅了するほど。
品行方正で、気位が高く、知性にも溢れている。
まるでお城の一室のような家は、高級装飾品や王様が座るような椅子、何処ぞの部族長が着るような服などでいっぱい。
麻薬のディーラーからカリスマ性たっぷりの天才ピアニストまで、マハーシャラ・アリは紛れもなく今随一の黒人スターだ。
吹替ナシのピアノ演奏シーンは、圧巻!
本当に人徳と魅力に溢れている。
何もかも正反対の二人。
白人と黒人。
非リッチとリッチ。
無教養と教養。
陽気と堅物。
粗野と真面目。
当然、最初は全くソリが合わない。
トニーはドンのいちいち細かい指摘が面倒臭い。
ドンはトニーのいい加減さが気に障る。
しかし次第に、お互い補っていく。
ドンはトニーに、自分とは違うものの見方、考えを教える。手紙の件はユーモラスであった。
トニーはドンに、もっと人生を楽しく生きる事を教える。ケンタッキー・フライドチキンが美味しそうであった。
ぎこちなくて、ぎくしゃくして、徐々に歩み寄って、時に衝突して、喧嘩して、やがて芽生え、育まれていく。
この旅の中で。
ドンのコンサート・ツアー。
ただのツアーではない。
この時代、訪れる地域が問題。
1960年代の米南部と言えば…。
言うまでもなく、ドンには差別が襲い掛かる。
チクッと刺さり、じわじわボディーブローのように効いてくるような偏見から、あからさまな差別、実際に受けた暴力まで。
苦境、苦難の連続。
この南部ツアーの3倍の契約金の北部ツアーの話もあった。
でも、それを断って、南部ツアーへ。
何故?…などと愚問。
信念と勇気。
トニーも当初は人種差別意識があった。
序盤、黒人工が使ったコップを捨てる。
その時の事を、ドンの面接時に、“もてなした”と平気でデタラメを言う。
この仕事を引き受けたのも、単に報酬が良かったから。
運転手兼用心棒ならまだしも、黒人の雑用その他諸々の召し使いみたいな真似なんてやってらんねぇ!
しかし、この目で、自ら差別に立ち向かっていく者の姿を見て…。
幾らぶっきらぼうでも、心境や意識が変わらない訳がない。
監督がピーター・ファレリーだとは驚かされる。
勿論彼らしく笑いもあるが、おバカ/お下品ではなく、ついニヤリ、クスリと顔が綻ぶ。
笑いと、人種問題と、感動のドラマを織り交ぜた新境地は、お見事!
実話ベース故、トニーもドンも実在の人物。ちょいと調べたら、トニーが役者もしていたのは驚きだが、脚本に、トニーの息子が携わっているのもこれまた驚き!
なるほど、だからか。父と深い友情で結ばれた友の話を、こんなにも温かく、優しく描けたのは。
地位や住まいは恵まれたドン。
しかし、この旅で我が身で知った現実、そして本当は孤独な胸の内…。
「黒人でも白人でも人間でもない私は何者なんだ?」…悲痛な叫び。
そんな彼に、ぶっきらぼうながらも、好アドバイスするトニー。
「あんたにしか弾けない演奏がある」
ドンがクライマックス、ある場所で弾いた“自分の”演奏は、まるで解き放たれたかのような素晴らしさ!
視野の狭かったトニーに視野を広く受け入れる事、暴力では何も解決しない事を清く正しく教えたドンだが、実は彼の方こそが、人生に於いてもっと大事なもの、欠けがえのないものを影響受けた。
人種問題や人の尊厳が本作のテーマだが、本作がこれほど多くの人から支持される理由は、身近で普遍的な人の有り様が描かれているから。
一部では白人目線の理想、お綺麗事と批判されてるようだが、
ラストのアットホームでウェルカムなメリー・クリスマス、二人の旅路~終着点まで、心満たされた。
コメント失礼します。
3年振りに「グリーンブック」を観ました。
やはり素晴らしいですね。
ドンの南部ツアーの目的は、
〉信念と勇気!
そうでしたか?
なるほど!そうでしたか!
拙レビュー、読んで頂けたら嬉しいです。